欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2014/9/15

総合 – 欧州経済ニュース

欧州委の新体制発表、英仏が要職確保

この記事の要約

EUのユンケル次期欧州委員長は10日、“閣僚”に当たる26人の欧州委員の担当分野を発表した。経済関係の要職を英国、フランスの委員に割り当てた一方で、委員長を補佐する6人の副委員長が複数の分野の調整役となり、他の委員を事実 […]

EUのユンケル次期欧州委員長は10日、“閣僚”に当たる26人の欧州委員の担当分野を発表した。経済関係の要職を英国、フランスの委員に割り当てた一方で、委員長を補佐する6人の副委員長が複数の分野の調整役となり、他の委員を事実上管轄する二重構造とし、EU全体にとって有益となる政策を推進する機関としての欧州委の機能を強化する。

EUの“内閣”である欧州委員会は、委員長以下28人で構成。加盟国から1人ずつ選ばれる。任期は5年。バローゾ委員長率いる現体制に代わる次期の欧州委は、欧州議会による承認を経て、11月1日に発足する。

今回発表されたのは、EU外交安全保障上級代表(EU外相)兼副委員長への就任が決まっているイタリアのモゲリーニ外相を除く26人の委員の担当。注目されていた経済・金融関連の重要ポストでは、「経済・金融・税制・関税」担当に仏モスコビシ前財務相、「金融安定・金融サービス・資本市場」担当に英国のヒル貴族院議長、米国との自由貿易協定(FTA)締結交渉などを管轄する「通商」担当にスウェーデンのマルムストロム現内務担当委員、「競争政策」担当にデンマークのフェスターガー財務相を充てた。

一方、これまで副委員長はそれぞれ担当分野を持っていたが、ユンケル次期委員長は外交に専念するモゲリーニEU外相を除く6人に特定の枠を超える分野の調整役という機能を持たせ、プロジェクトチームを率いて関係委員と連携しながら政策運営に当たらせることにした。公正な立場にあるべき各委員が出身国の国益にしばられ、暴走するのを防ぐ意図があると目される。

副委員長はモゲリーニEU外相のほか、第1副委員長(規制改善・内部組織関係・法治・基本的人権担当)にオランダのティメルマンス外相、予算・人事担当の副委員長にブルガリアのゲオルギエワ現欧州委員(国際協力・人道援助・危機対応担当)、同エネルギー同盟担当にスロベニアのブラトゥシェク前首相、同雇用・成長・投資・競争政策担当にフィンランドのカタイネン前首相、同ユーロ・社会対話担当にラトビアのドムブロフスキス前首相、同デジタル単一市場担当にエストニアのアンシプ前首相という陣容だ。

第1副委員長職の設置は初めて。欧州委の声明によると、ティメルマンス氏はユンケル氏の右腕として、各欧州委員の提案が「真に求められているものであるかどうか」をチェックする役目を担うとしており、日本の官房長官に近い総合的な調整機能が期待されているようだ。

重要ポストをめぐっては、欧州委が新体制に移行するたびに各国が争奪戦を繰り広げるのが恒例で、今回も英、仏が経済関連の要職確保に躍起となっていた。ただ、英のヒル氏は政治家として無名に近く、EUの統合深化に批判的であることや、英がユーロ導入を見送り、銀行同盟参加を拒んでいることから、同国が金融担当という主要ポストを射止めたのは予想外。2017年にEU離脱の是非を問う国民投票を実施する同国への引き留め工作との見方が出ている。

フランスが財政に関連する経済・金融・税制・関税担当のポストを確保したことについても、懐疑的な見方が多い。フランスがEUの財政規律順守を軽視しており、モスコビシ氏自身も赤字是正より成長重視を掲げていたためだ。ただ、同ポストは雇用・成長担当の副委員長と、財政規律にも関係するユーロ担当の副委員長の監督下に置かれ、しかも両副委員長が財政緊縮派であるフィンランド、ラトビア出身であることから、絶妙なバランスの人事と評価する向きもある。