2021/2/1

EU情報

EUがアストラゼネカのワクチン承認、供給めぐる対立は激化

この記事の要約

EUは1月29日、英製薬大手アストラゼネカと英オックスフォード大学が共同開発した新型コロナウイルスワクチンを承認した。近く域内で接種が開始される見込みだ。しかし、アストラゼネカがEUへの当初の供給量を大幅に減らすことに猛 […]

EUは1月29日、英製薬大手アストラゼネカと英オックスフォード大学が共同開発した新型コロナウイルスワクチンを承認した。近く域内で接種が開始される見込みだ。しかし、アストラゼネカがEUへの当初の供給量を大幅に減らすことに猛反発し、同社と激しく対立する事態に陥っている。

EUは2020年8月、アストラゼネカと最大4億回分のワクチンを調達する契約を結んだ。ところが、同社は1月22日、3月末までの供給量について、当初予定されていた8,000万回分から3,100万回分に減らすと発表した。EU内にある工場での生産が遅れているという理由だ。

EUでは米ファイザーと独ビオンテックの連合、米モデルナのワクチンが承認済みで、接種が始まっている。しかし、ファイザーが1月中旬、量産体制の強化に向けてベルギー工場での生産を一時縮小する必要があるため、ワクチンのEUへの出荷を一時的に減らすと発表。ワクチンが不足し、接種が英国、米国、イスラエルなどと比べて大きく出遅れている。

それだけにアストラゼネカの発表は大きな波紋を広げており、欧州委のフォンデアライエン委員長と同社のパスカル・ソリオ最高経営責任者(CEO)が25日に電話会談するなど協議を重ね、同問題について協議。EU側は供給削減の説明を求めると同時に、契約通り供給するよう要求しているが、アストラゼネカ側は「努力する」と述べるにとどまっている。

さらに、ソリオCEOが欧州のメディアに対して、英国には予定通り供給していることについて、契約がEUより3カ月早かったとして正当化し、3月末までに8,000万回分を供給するというのは「約束ではなく目標だ」と開き直ったことで、EU側の怒りが増幅している。

欧州委員会のキリヤキデス委員(保健衛生・食の安全担当)は27日の記者会見で「早い者勝ちの論理は近所の肉屋では通用するが、(EUとの)契約では受け入れられない」として反発。同社を契約違反として批判した。また、同社がEUの2工場、英国の2工場でコロナワクチンを製造していることに触れ、EUでの生産が遅れるなら英工場からEUに供給するよう求めた。これは英政府にとって応じがたい要求で、EUを完全離脱した同国とEUの亀裂が深まりかねない情勢だ。

欧州委内からは、EUがアストラゼネカのワクチン開発、増産体制の整備に3億3,600万ユーロ(約425億円)も支援したのに、供給が滞るのは許せないという恨み節も聞こえる。ある高官はAP通信に対して、契約を守れないのなら同支援の一部の返還を求める可能性があると述べた。

欧州委とアストラゼネカが合意の上で29日に公表された事前購入契約書は、多くの部分が黒塗りとなっており、正確なところは不明だが、EUへの供給量に関しては同社が主張するように「最善の努力」をするという文言が盛り込まれている。しかし、EU側はフォンデアライエン委員長が、同条項はアストラゼネカがワクチンを開発できるかどうかわからなかった時点でのみ有効で、現在は予定通り供給する法的義務があるとしており、双方の言い分には依然として食い違いがある。

EUのアストラゼネカに対する強硬な姿勢は、ワクチン不足への危機感を強めていることが背景にある。モデルナはスペインのマドリード州政府は27日、ファイザー連合とモデルナのワクチンが不足しているため、接種を少なくとも10日間は中止せざるを得ないと発表。フランス、ドイツなどの一部地域でも在庫が底をつき、接種の一時中止に追い込まれている。

さらに、モデルナはこのほど、フランス、イタリアなどに対して、2月のワクチン供給が予定より約2割減ると通告した。

こうした状況を受けて、欧州委は29日、新型コロナワクチンのEU域外への輸出を制限する措置を導入すると発表した(後続記事参照)。20年3~5月に実施したマスクなど個人防護具(PPE)の輸出規制をワクチンにも適用する格好だ。

EU、高齢者への接種も容認

アストラゼネカのワクチンは2種類のモノクローナル抗体を組み合わせたもの。臨床試験(治験)で65%の効果が確認された。欧州委は29日、欧州医薬品庁(EMA)が同日に承認を勧告したのを受けて、正式承認した。EUでの新型コロナワクチン承認は3件目。アストラゼネカのワクチンは、これまでに英国、インド、アルゼンチン、メキシコなど40カ国以上で承認されていた。

EUでは18歳以上に限って投与を認める。1回目の接種から2回目までに4~12週間の間隔を置く。ドイツのワクチン委員会は28日、臨床試験では55歳以上の治験者が少なく、安全性に疑問があるとして、65歳以上への接種を推奨しない方針を示したが、EMAは高齢者にも使用可能として、対象年齢に上限を設けなかった。

同ワクチンは効果でファイザー連合、モデルナに劣るが、安価でしかも通常の冷蔵庫での保管が可能という利点がある。夏までに成人の70%以上がワクチン接種を終えるという目標を掲げるEUにとって大きな希望の星となるだけに、供給削減をめぐる対立は根深い。

アストラゼネカ、供給を900万回分追加

フォンデアライエン委員長が31日、ツイッターへの投稿で明らかにしたところによると、同日にアストラゼネカのソリオCEOとテレビ会議で協議した結果、同社がEUへの1~3月の供給量を22日の通告より900万回分増やし、計4,000万回分を供給することや、予定より1週間早く供給を開始することに同意した。EUでの生産能力を増強することにも応じた。同委員長は「一歩前進だ」と歓迎の意を示したが、それでも同期の供給分は契約時の8,000万回分の半分にとどまり、亀裂は埋まっていない。