EU離脱でロンドンの金融街シティーの地位低下に直面する英国が、株式市場に有望企業を呼び込むため上場規則の緩和に向けて動き出した。政府の要請を受けてロンドン証券取引所の上場基準の見直しを進めてきたジョナサン・ヒル卿が3日、発行されている株式の中で、市場に流通する可能性の高い株式の割合を示す浮動株比率の要件緩和などを提言した。金融行動監視機構(FCA)は提言を歓迎しており、意見募集を行ったうえで2021年中の新ルール導入を目指す意向を示している。
英国はEUからの完全離脱後も国際金融センターとしてのロンドンの競争力を維持するため、スナク財務相が昨年11月に上場規則を見直す方針を表明。16年6月まで欧州委員会の金融安定・金融サービス・資本市場同盟担当委員を務めたヒル氏が中心となり、新規株式公開(IPO)のハードルを下げるための具体策を検討してきた。
提言の柱は、一般の投資家などが市場で売買する流動性の高い浮動株の比率に関する要件を緩和して、最低水準を現在の25%から15%に引き下げるというもの。また、創業者や役員などに1株で複数の議決権が付与された株式を割り当てる複数議決権付き種類株について、今後はプレミアム市場でも発行を認めるよう勧告した。いずれもニューヨーク証券取引所などと同様、創業者一族などが強力な経営支配権を保ちながら株式を上場できるようにするための措置だ。
ヒル氏はこのほか、特別買収目的会社(SPAC)に対しても上場規則を緩和し、米国と同様、SPACが企業買収を発表した後も取引を継続できるようにすることや、新株発行に関する目論見書の抜本的な見直しを提言した。
提言書によると、過去5年間の世界のIPO市場に占めるロンドンのシェアは5%にとどまり、上場企業の数は08年から40%落ち込んだ。さらに上場企業の大半が金融または「オールドエコノミー」に属しており、ヒル氏は今後ロンドンがニューヨークや香港などに対抗するうえで、高い成長が見込めるテクノロジーや生命科学分野の企業を呼び込む必要があると訴えた。