欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2021/5/10

EU情報

EUが域外企業による買収などの規制案発表、補助金受ければ差し止めも

この記事の要約

欧州委員会は5日、EU域外の企業の公的補助を後ろ盾としたEU企業の買収、公共調達での受注に対する規制案を発表した。EU市場で影響力を強める中国を念頭に置いたもので、欧州委が健全な競争をゆがめると判断した場合は買収や公共調 […]

欧州委員会は5日、EU域外の企業の公的補助を後ろ盾としたEU企業の買収、公共調達での受注に対する規制案を発表した。EU市場で影響力を強める中国を念頭に置いたもので、欧州委が健全な競争をゆがめると判断した場合は買収や公共調達の取引を差し止めることができるようにする。

同規制案によると、本国政府から5,000万ユーロ相当を超える補助金を交付された域外企業が売上高5億ユーロ以上のEU企業を買収する際に、欧州委に補助を受けていることを事前に通知することを義務付ける。取引額が2億5,000万ユーロを超える公共調達入札に参加する際も同様の義務を課す。

問題となる補助金には直接補助だけでなく、金利がゼロまたは低利の公的融資、税制上の優遇措置など、あらゆる形の公的補助が含まれる。欧州委は通知に沿って審査し、当該企業が補助によって有利な立場になり、買収や公共調達の競争をゆがめると判断すれば是正措置(買収の場合は一部の事業・資産の売却など)を講じるよう命じる権限を持つ。取引を差し止めることもできる。通知を怠った場合は罰金を科す。

また、買収、公共調達の取引規模が上記の上限を下回る場合も、公的補助が絡んでいる可能性があれば調査に乗り出し、同様の審査を行う。

EUでは競争法で域内企業への公的補助を厳しく制限している。しかし、域外企業に関しては管轄外で、EUへの輸出に関して補助金の影響を加味してダンピング(不当廉売)かどうかを認定しているものの、買収と公共調達では規制がない。中国企業による域内企業買収が活発化する中、欧州委は20年6月に「外国補助金に関する競争の公平性」と題する白書を発表し、こうした問題に対応する方針を打ち出していた。

欧州委の規制案は白書に盛り込まれた案を土台としたもの。コロナ禍で多くのEU企業が疲弊し、買収の標的となる余地が高まっていることも考慮し、具体案をまとめた。EU加盟国と欧州議会の承認を経て実施する。

欧州委のベステアー上級副委員長(競争政策担当)は、「域外企業は欧州での企業買収で補助金を自由に活用してきた。一部の企業は公共調達の入札でライバル企業より安値を提示できたが、これは効率性の問題ではなく政府から支援を受けたためだ」と述べ、規制導入の必要性を強調した。

欧州委は同日、EUの産業戦略の改定版も発表。半導体、医薬品の成分、水素など戦略的に重要な137分野で中国など域外に大きく依存していることを問題視し、域内の関連企業の連携による体力強化やサプライヤーの多様化などを進める方針を示した。同戦略を推進する上でも、補助金規制による公平な競争環境の整備が必要と指摘している。

EUは3月、中国の新疆ウイグル自治区で重大な人権侵害が続いているとして、中国政府当局者らへの制裁を発動した。これに中国が反発して関係が険悪化し、昨年末に合意した中国との投資協定の批准が危ぶまれている(後続記事参照)。中国を主な標的とした今回の新規制が導入されれば、さらなる関係悪化が避けられない見込みだ。