欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2021/6/21

EU情報

EU・米首脳会議、航空機補助巡る紛争解決で合意

この記事の要約

EUと米国は15日、ブリュッセルで首脳会議を開き、航空機メーカーへの補助金をめぐる紛争の解決に向けた協力の枠組みで合意した。相互に発動した報復関税を5年間停止し、作業部会を設置して恒久的な解決策を検討する。米欧はトランプ […]

EUと米国は15日、ブリュッセルで首脳会議を開き、航空機メーカーへの補助金をめぐる紛争の解決に向けた協力の枠組みで合意した。相互に発動した報復関税を5年間停止し、作業部会を設置して恒久的な解決策を検討する。米欧はトランプ米前政権下で悪化した関係を修復し、中国への対応で連携を強化する。

首脳会議にはEUのミシェル大統領(欧州理事会常任議長)、欧州委員会のフォンデアライエン委員長、米バイデン大統領が出席した。双方は貿易投資のほか、新型コロナウイルスへの対応や気候変動、安全保障など幅広い分野での協力促進で一致。「新たな環大西洋パートナーシップに向けて」と題する共同声明を採択した。

EUと米国はエアバスとボーイングに対する補助金の違法性を巡り、2004年からWTOを舞台に争ってきた。WTO上級委員会は18年5月、EUによるエアバスへの補助金は不当との最終判断を下したのに続き、19年3月には米国によるボーイングへの補助金も不当と認定。これを受けて米国は19年10月、EUから輸入する航空機、ワイン、チーズなどに最大25%の追加関税を課す報復措置を発動。EUも昨年11月から航空機やトラクター、ワインなどの米国製品に最大25%の関税を上乗せした。しかし、今年に入りバイデン政権下で同盟関係の再構築が進む中、EU米は3月、報復関税を4カ月間停止する措置を導入していた。

双方は今回の合意に基づき、報復関税の停止措置を5年間延長する。このほか、優遇税制などを通じた公的支援策の回避、研究・開発費の透明性の確保、中国の航空機メーカーが巨額の補助金を得てボーイングとエアバスに対抗しようとしている点を踏まえ、世界の航空機市場に悪影響を及ぼす「非市場経済国の商慣行」に共同で対処することなどで合意した。

フォンデアライエン氏は首脳会議後の記者会見で「今回の合意により、欧米関係の新たな章が開かれた」と表明。バイデン氏は声明で「米欧は16年以上に及ぶ航空機補助金を巡る紛争の解決に向けて大きく前進した。中国の非市場的慣行に対抗するため、協力して取り組むことでも合意した」と強調した。

通商分野ではこのほか、鉄鋼とアルミニウムをめぐり、米国とEUが相互に追加関税を課している問題について、6カ月以内に解決を目指す方針で一致した。双方は5月、問題解決に向けて協議を開始することで合意。EUは6月1日から一部品目の関税引き上げや対象品目の拡大を計画していたが、交渉中は追加措置を控えると表明していた。

EU米はまた、人工知能(AI)など新技術の標準化やサイバーセキュリティ、国境をまたぐデータ移転を前提としたデジタル貿易などの分野で欧米主導によるルール作りを進めるため、「貿易・技術評議会」を創設することで合意した。

一方、新型コロナ対応では、EU米共同タスクフォースを立ち上げ、ワクチンや治療薬の生産能力の増強、オープンで安全なサプライチェーンの確保、不必要な輸出制限の回避、適正な条件でのノウハウや技術の自発的な共有などに取り組むことで合意した。

気候変動対策では、温暖化対策が不十分な国からの輸入品に事実上の関税を課す「国境炭素税(国境炭素調整)」について、EU米間で協議することで合意した。EUは中国を念頭に、2023年1月までに国境炭素税を導入する計画で、欧州委員会が7月に具体策を公表する見通し。一部の米国製品も対象になる可能性が指摘されており、双方は世界貿易機関(WTO)などで協議する方針を確認した。

このほか外交・安全保障分野では、中国新疆ウイグル自治区や香港の人権侵害や、中国が海洋進出を進める東シナ海や南シナ海の現状などに対して強い懸念を表明。声明は「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記し、自由で開かれたインド太平洋の維持のため、EU米が連携を強化することで合意した。

米英も航空機補助金紛争で休戦、報復関税5年間停止

米英両政府は17日、ボーイングとエアバスに対する補助金をめぐる紛争で休戦し、相互に課している報復関税を5年間停止することで合意したと発表した。EUと米国が15日に合意した枠組みと同じ内容。両国は3月から関税を4カ月停止して解決策を探っていたが、同措置を延長して中国など非市場経済国の商慣行に対抗する。

米国はEUに対する報復関税の一環として、19年10月から英国産のスコッチウイスキーや衣類などに最大25%の関税を上乗せしてきた。英政府によると、対象品目の輸出額は約5億5,000万ポンドに上る。英国のEU離脱に伴い、米国はEUと並行して英国とも個別に交渉を進めていた。