欧州委員会は20日、マネーロンダリング(資金洗浄)、テロ資金供与対策(AML/CFT)の強化に向けた包括的政策案を発表した。資金洗浄やテロ資金供与などの組織犯罪にEUレベルで対処するため、域内の金融機関を直接監督する権限を持つ新たな機関の設置などを柱とする内容。今後、欧州議会と閣僚理事会で欧州委の提案について協議する。
EUには資金洗浄やテロ資金対策を管轄する機関がなく、各国当局が個別に対処してきたが、国境をまたいだ組織犯罪への対応でどの国が主体となるかなどについてしばしば意見対立があり、共通ルールに沿ってより厳しい措置を講じることができる体制を整備する必要に迫られていた。
欧州委案によると、新設される「マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策機関(AMLA)」は国境を越えて事業展開する金融機関を管轄下に置き、最もリスクの高い金融機関をリスト化して直接監督する。それ以外の金融機関についても監督する規制当局の対応が不十分と判断した場合、必要に応じて介入する。資金洗浄などに関与した金融機関には最大1,000万ユーロ、または年間取扱額の10%相当の罰金を科し、これをAMLAの運営資金に充てる。
一方、これまでEUの金融サービス規制の対象外となっている暗号資産(仮想通貨)の送金に対する規制案も打ち出した。欧州委は「仮想通貨が不正資金の流用に利用される可能性があり、仮想通貨の利用者は資金洗浄やテロ資金供与のリスクにさらされている」と指摘。不正資金対策を強化するため、暗号資産を扱う全ての事業者に対し、顧客の氏名や住所、生年月日、口座番号、受取人の氏名などの記録を義務付けるほか、サービスプロバイダに対しても詳細情報の確認を求めることを提案した。さらに銀行口座と同様、匿名の仮想通貨ウォレットも禁止する。
欧州委はこれにより、ビットコインなどの暗号資産の送金に関する完全なトレーサビリティーを確保するとともに、資金洗浄やテロ資金調達で利用される可能性を排除することができると説明している。
欧州委はこのほか、加盟国によってばらつきがある資金洗浄防止のための規則を統一し、2025年までにEU共通のルールブックを策定することや、現金取引に1万ユーロの上限を設けることなどを提案している。