欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2021/9/6

EU情報

ユーロ圏の物価上昇が加速、8月は10年ぶり高水準に

この記事の要約

EU統計局ユーロスタットが8月31日に発表したユーロ圏の同月のインフレ率(速報値)は前年同月比3.0%となり、前月の2.2%から大幅に拡大した。これは2008年10月以来、約10年ぶりの高水準で、欧州中央銀行(ECB)が […]

EU統計局ユーロスタットが8月31日に発表したユーロ圏の同月のインフレ率(速報値)は前年同月比3.0%となり、前月の2.2%から大幅に拡大した。これは2008年10月以来、約10年ぶりの高水準で、欧州中央銀行(ECB)が新たな目標として設定した2.0%を大きく上回った。(表参照)

物価上昇は景気回復やエネルギーの急激な値上がりが主因。エネルギー価格の上昇率は前月を1.1ポイント上回る15.4%で、8月としては過去最高となった。また、工業製品が0.7%から2.7%に急拡大しており、サプライチェーンの混乱による半導体など生産資材の不足も物価を押し上げたとみられる。

主要国のインフレ率は、ドイツが13年ぶりの高水準となる3.4%。フランスは2.4%、イタリアは2.6%、スペインは3.3%だった。ECBの目標である2%を下回ったのはギリシャ、ポルトガル、フィンランド、マルタの4カ国にとどまった。

ECBは7月に金融政策の戦略見直しを発表し、インフレ率の目標を従来の「2%未満でそれに近い水準」から「2%」に引き上げた。物価の一時的な上振れを容認することで大規模な金融緩和を継続し、コロナ禍で打撃を受けたユーロ圏経済の回復を後押しする狙いがある。

ユーロ圏ではコロナ禍に伴う消費の停滞などで、20年8月からインフレ率がマイナスとなっていたが、1月にプラスに転じ、その後は急ピッチで上昇している。これまでECBは物価の急上昇について、低迷していた原油価格の上昇やドイツの付加価値税(VAT)減税が12月に終了するといった一時的要因が大きいという見解を示していた。市場でも今後数カ月は上昇が続くものの、長期的には縮小に転じるとの見方が多い。

ただ、8月はECBが金融政策で重視する基礎インフレ率(価格変動が激しいエネルギー、食品・アルコール・たばこを除いたインフレ率)も1.6%と、前月の0.7%を大きく上回った。このため、国債などを買い取る量的緩和の縮小を含む金融政策正常化に向けた動きを早めざるを得ないとの見方も出ており、ECBが9月9日に開く次回の定例政策理事会でどのような対応を示すかに注目が集まっている。