英政府、北アめぐる猶予期間を再延長

英政府は6日、英本土から北アイルランドに入る食品などに対する複雑な通関・検疫手続きをEU離脱後も免除する「猶予期間」を延長すると発表した。同期間はすでに延長済みで、9月末が新期限となっていたが、EU離脱に伴って北アイルランドで物流が混乱する問題の解決に向けたEUとの協議の時間を稼ぐため、再延期に踏み切った。

猶予期間の延長は、英国でEU離脱問題を担当するフロスト内閣府担当相が発表した。いつまで延長するかは明らかにしていない。EUは同日、延長を受け入れる意向を表明した。

EUと英国が2019年10月に合意した離脱協定には、北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて北アイルランド議定書が盛り込まれ、英の離脱後も北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けず、物流やヒトの往来が滞らないようにすることが決まった。北アイルランドが事実上、EU単一市場と関税同盟に残った格好で、これによって通関が北アイルランドとアイルランドの間では行われない。

その代わりに、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらずEUの規制が適用され、通関・検疫が必要となった。これを受けて北アイルランドでは英国が完全離脱した1月から物流の混乱が生じたことから、英政府は3月、猶予期間を3月末から10月1日まで延長すると一方的に宣言した。これに続く延長となる。

英のEU離脱に伴って北アイルランドで導入された通商ルールをめぐっては、政府は猶予期間延長のほか、英本土から北アイルランドへのソーセージなど冷蔵食肉製品出荷に関する規制の適用停止も3カ月延長し、9月末までとすることでEUと合意するなど、一時しのぎで対応してきた。

しかし、英政府は恒久的な解決が必要として、7月に議定書の見直しに向けた交渉をEUに求めた。本土から北アイルランドに入る物品のうち、北アイルランド経由でアイルランドなどEUに輸出されるものだけを通関・検疫手続きの対象とすることを目指す。EU側は議定書そのものの見直しは拒否しているものの、「議定書の枠内」での問題解決に向けた協議には応じたため、現在も交渉が行われている。

3月に英国が猶予期間延長を打ち出した際は、EUは離脱協定に反する一方的な決定として猛反発し、法的手続きに着手した。ただ、英の離脱を機に冷え込んでいる双方の関係が一段と悪化するのを避けるため、法的手続きを7月に凍結し、話し合いによる解決を模索する方針に転じた。今回の延長決定に関しても、EUの欧州委員会は同日発表した声明で、容認する構えを示した。

EUと英国は猶予期間を無期限で延長し、英国側が懸念する通商ルールの問題をめぐる協議の妥結を目指すことで一致した形だ。それでも、EU側は議定書の枠内での柔軟なルール運用という姿勢を堅持しており、欧州委のシェフチョビチ副委員長は10日、北アイルランドを訪問した際に同方針を改めて確認した。英国側の要求とは大きな溝がある。英国側は協議行き詰まった場合に北アイルランドをめぐる取り決めを一方的に破棄することをちらつかせ、EUに歩み寄りを促しているものの、難航している協議の決着は見通せない情勢だ。

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