英・オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルは15日、英国とオランダに分かれていた本社機能や株式を英国に一本化すると発表した。税務上の拠点もオランダから英国に移し、社名は「シェル」に改める。組織の二重構造を解消して経営を効率化し、脱炭素に向けた事業戦略を実行しやすくする狙いがある。
12月10日の株主総会で承認を得た上で体制の変更を実施する。オランダと英国でそれぞれ発行していた株式を英国側に一本化し、最高経営責任者(CEO)や最高財務責任者(CFO)の拠点も英国に移す。なお、同社株式はアムステルダム、ロンドン、ニューヨークの3市場に上場しているが、体制変更後もこれを維持する。
アンドリュー・マッケンジー会長は「組織体制や株式構造を簡素化することで競争力を高めるとともに、自社株買い戻しによる株主への利益還元を拡充し、温室効果ガス排出量を実質ゼロにするための戦略を実行しやすくなる」と述べ、株主に支持を呼びかけた。
シェルの発表を受け、英国のクワルテング・ビジネス・エネルギー・産業戦略相は「英国経済に対する明確な信任を示すものだ」と述べ、今回の動きを歓迎。一方、オランダ政府は「歓迎できない驚き」とコメントし、体制変更が同国の雇用や投資環境に及ぼす影響について、シェルの経営陣と協議を行っていることを明らかにした。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、政府は懐柔策として15%の配当源泉税を廃止するため、議会への働きかけを強めているもようだ。シェルや昨年に英国とオランダの二重構造を解消して英国企業となった日用品大手ユニリーバなどにとって、同制度は長年にわたる不満の種だった。
ロイヤル・ダッチ・シェルは1907年、オランダのロイヤル・ダッチ・ペトロリウム・カンパニーと英シェル・トランスポート・アンド・トレーディング・カンパニーが提携して発足。2005年に両社が経営統合して2つの親会社が共存する体制は解消されたが、その後も本社機能や株式の二重構造が続いていた。
シェルを巡っては、物言う株主(アクティビスト)として知られる米投資ファンドのサード・ポイントが10月下旬に大量の株式を取得し、業績と企業価値の向上を目的に会社分割を求めていることが明らかになった。再生可能エネルギーや液化天然ガス(LNG)など巨額投資が必要な低炭素事業部門と、石油・ガス生産など従来型の化石燃料事業部門を分離することで、多様な投資家の期待に応えて企業価値を高めることができるというのが同社の主張。シェルは低炭素を進めるための長期戦略は大多数の投資家に支持されていると強調し、会社分割に否定的な見解を示している。