欧州会計監査院(CEA)は1月31日、EUのエネルギー課税やエネルギー補助金に関する報告書を公表した。課税制度に関しては、エネルギー源ごとの温室効果ガス排出量が税率に反映されておらず、EUが進める気候変動政策との整合性が取れていないと分析。エネルギー補助金についても、いまだに多くの加盟国で化石燃料に対して多額の公的資金が投入されており、これが再生可能エネルギーへの移行を遅らせる一因になっていると指摘している。
EUは2050年に域内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げている。気候中立の実現に向けた中間点として、30年までに温室効果ガス排出量を1990年比で55%削減するとの目標を掲げ、欧州委員会は昨年7月、その達成に向けた政策パッケージ「Fit for 55」を発表。EU排出量取引制度(EU-ETS)の改正案や炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関する規則案などとともに、エネルギー税制をEUの気候変動政策と整合させることに主眼を置いたエネルギー課税指令の改正案を提示した。CEAは今回、現行のエネルギー課税やエネルギー補助金がEUの気候変動目標の達成に向けてどの程度貢献しているかを分析した。
エネルギー課税指令の改正案は、再生可能エネルギーへの移行を促すため、EU全体で温室効果ガス排出量の少ないエネルギー源の税負担を軽くすることなどを柱とする内容。報告書によると、2019年の統計に基づくエネルギー源別の税負担額はガソリンが67.0ユーロ/メガワット時(MWh)、軽油が38.6ユーロ/MWhであるのに対し、天然ガスは7.0ユーロ/MWhに抑えられている。その一方、電力は32.1ユーロ/MWhと高く、天然ガスより二酸化炭素(CO2)排出量が多い重油は5.0ユーロ/MWh、石炭を含む固形化石燃料は2.9ユーロ/MWhとなっており、低炭素のエネルギー源が税制面で必ずしも優遇されていないのが実情だ。
エネルギー補助金に関しては、再生可能エネルギーに対する補助金がEU全体で08年の200億ユーロから19年は780億ユーロに拡大した。EUはエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を30年までに40%に引き上げる目標を掲げており、CEAは加盟国による補助金の拡充が目標達成に向けて大きく貢献していると評価した。一方、化石燃料に対する補助金は09年の580億ユーロから19年は560億ユーロと、ほとんど減少していない。EU全体では再生可能エネルギーに対する補助金が化石燃料に対する補助金を上回っているものの、15カ国では化石燃料の補助金が上回っており、CEAはこれがエネルギー転換の足かせになっていると指摘した。
EUは25年までに化石燃料に対する補助金を廃止する方針を打ち出しており、22年にも加盟国に進捗状況の報告を義務付けるルールが導入される見通しとなっている。