欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2022/5/9

EU情報

EUがロシア産石油も禁輸へ、ハンガリーの反発で調整は難航

この記事の要約

欧州委員会は4日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアへの追加制裁案を発表した。ロシア産石油の輸入を年末までに段階的に禁止することが柱。ロシア最大手銀行ズベルバンクを国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除することなども盛り […]

欧州委員会は4日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアへの追加制裁案を発表した。ロシア産石油の輸入を年末までに段階的に禁止することが柱。ロシア最大手銀行ズベルバンクを国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除することなども盛り込んだ。原油や石油精製品の段階的禁輸に関しては、ロシアへの依存度が高いハンガリーが強く反発しているほか、スロバキアやチェコも難色を示している。制裁発動には加盟国の全会一致が必要で、合意形成に向けた今後の協議では、これらの国に認める禁輸実施までの「猶予期間」が焦点となりそうだ。

EUはエネルギー分野におけるロシア依存からの脱却を目指しており、4月に合意した第5弾の対ロ制裁パッケージでは石炭の輸入禁止を打ち出した。ロシア産石油の禁輸はこれに続く措置で、原油は6カ月以内、石油精製品は年内に輸入を停止する。EU関連の船舶による第三国への輸送や、第三国経由の取引も禁止するほか、海上保険のサービス提供も禁止する。主要な外貨獲得源であるエネルギーの禁輸を強化することで、ロシア経済を弱体化させる狙いがある。

欧州委のフォンデアライエン委員長は欧州議会での演説で「一部の加盟国はロシア産石油に大きく依存しており、段階的禁輸は容易ではないが、断固として取り組む必要がある」と強調。そのうえで「加盟国がロシアに代わる供給ルートを確保できるよう、秩序だった方法で段階的に輸入を停止する」と述べ、迅速な対応が困難な東欧諸国などに配慮する姿勢を見せた。

欧米メディアによると、欧州委は6日の大使級会合で、石油禁輸の期限についてハンガリーとスロバキアには2024年12月末、チェコには同年6月までの猶予期間を与える案を提示したもよう。当初はハンガリーとスロバキアに対し、23年末までの猶予を認める方向で検討が進められていたが、ハンガリーのシーヤールート外相が4日、「現在の形では支持できない」と表明したのに続き、6日にはオルバン首相が国営ラジオで「レッドラインを越える要求で、EUの結束に対する攻撃だ」などと強く批判。チェコからはハンガリーとスロバキアだけに猶予を認めることへの不満が表明され、条件の見直しを余儀なくされた。

8日付ポリティコによると、ハンガリーは2年の猶予期間延長にも納得せず、石油禁輸の実施義務を免除するよう求めているもよう。オルバン氏は「禁輸措置はハンガリー経済にとって核爆弾と同じ」と形容し、ロシアに代わる調達先を確保して供給システムを刷新するには「少なくとも5年を要する」と発言していた。国際エネルギー機関(IEA)によると、ハンガリーではロシアからの輸入が石油の国内消費量の約6割を占めている。

EU外交筋によると、加盟国は9日にも協議を再開するが、ハンガリー、スロバキア、チェコ以外からも猶予期間の延長を求める声が上がっているもようで、調整は難航しそうだ。

第6弾の制裁案には、ズベルバンクを含む3つの銀行をSWIFTから排除することも盛り込んだ。3月の時点で同国2位のVTBバンクなどをSWIFTから排除したが、最大手行を対象に加えて経済的な圧力を一段と強める。

また、テレビを含むロシアの国営メディア3社のEU内での活動を禁止するほか、ウクライナ東部ドネツク州の港湾都市マリウポリでの非人道的な攻撃に関与したロシア軍関係者らを資産凍結などの制裁対象リストに追加した。