中・東欧、CIS諸国、ロシアに特化した情報誌

2011/3/9

ロシア

原油高騰でロシア歳入増、長期的には産業育成に遅れも

この記事の要約

中東・北アフリカの政情不安に対するロシアの立場は複雑だ。原油価格の高騰で経済がうるおうのは確かだが、同じ理由で、政府が標榜する資源依存経済からの脱却が遅れる可能性があるためだ。メドベージェフ大統領が原油高騰を新経済発展の […]

中東・北アフリカの政情不安に対するロシアの立場は複雑だ。原油価格の高騰で経済がうるおうのは確かだが、同じ理由で、政府が標榜する資源依存経済からの脱却が遅れる可能性があるためだ。メドベージェフ大統領が原油高騰を新経済発展の障害とする見方を明らかにしたのに対し、プーチン首相が政情不安を欧州に対する石油供給拡大への機会として捉えていることに、その微妙な立場が表れている。しかし、今年の議会選、来年の大統領選を控え、国庫に追加歳入をもたらす情勢を歓迎する声が大勢だ。

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プーチン首相は、原油高騰で世界経済の成長にブレーキがかかる危険を認識しているとしながらも、欧州に対し、ロシアを確実なエネルギー供給国としてアピールしている。その背景には、ロシアにとって最大の顧客である欧州連合が、ロシアへのエネルギー依存を弱める政策を採っている事実がある。

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世界最大の産油国であるロシアは、紛争が起こると常にそこから大きな利益を得ている。今回もリビアに対する武器禁輸措置で関連輸出額が40億米ドル(29億ユーロ)減るが、石油価格の上昇による利益はこれを補って余りあるとみられている。

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ロシアの国家予算は、石油の平均価格を1バレル=75ドルとして組まれている。価格が97ドルまで上がれば、歳入が自動的に1兆5,000億ルーブル(380億ユーロ)増えるのだ。クドリン財務相はすでに、今年度の財政赤字が計画の国内総生産比3.6%から2%以下に縮小する可能性を指摘している。

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現時点でも新規国債の発行額を計画よりも減らしているほか、危機に備えて積み立てた準備金を取り崩す必要がなくなっている。この準備金はマクロ経済の安定に向けた財政引当金という性格があり、2008年の危機前には約4兆3,500億ルーブルに上っていた。現在は7,250億ルーブルまで減っているが、原油価格が上がれば年末までに2倍の1兆4,500億ルーブルに回復するのも夢ではない。

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一方で、ロシア政府が資源依存型経済の問題を公に認め、他の産業を育てる政策を打ち出したのは、金融危機による原油価格の下落で財政赤字が急速に増えたことがきっかけだった。「濡れ手で泡」のように石油で稼げる現状は、他の産業に注力する意欲をそぐことになりかねない。また、通貨ルーブルの為替相場の上昇も新産業育成の阻害要因とみられている。外国製品の価格が安くなれば国産品の需要が小さくなるためだ。

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メドベージェフ大統領は、政情不安がロシアに飛び火する可能性はないと言明する一方で、原油価格が予測通り1バレル140ドルに上がれば、新産業を発展させる魅力が失われてしまうと懸念を表明している。(1RUB=2.94JPY)

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