2014/7/23

総合・マクロ

欧州が対ロ制裁強化へ、民間航空機撃墜を機に

この記事の要約

蘭アムステルダムからマレーシア・クアラルンプールへ向かっていたマレーシア航空の旅客機MH17便(ボーイングB777型機)が17日午後、ウクライナ東部の上空で撃墜されたとみられる事件を機に、欧州で対ロシア制裁を強化する動き […]

蘭アムステルダムからマレーシア・クアラルンプールへ向かっていたマレーシア航空の旅客機MH17便(ボーイングB777型機)が17日午後、ウクライナ東部の上空で撃墜されたとみられる事件を機に、欧州で対ロシア制裁を強化する動きが加速しそうだ。オランダ人など多くの欧州連合(EU)市民が犠牲になったことや、親ロ派武装勢力が現地調査を妨害したことで、対ロシア感情が急速に悪化した。EU外相は22日、追加的制裁措置を今月中に決定することで合意。24日までに欧州委が制裁案を取りまとめる。

EUと米国は、ロシアがウクライナの親ロシア武装集団に支援を続けているとして、事件前の16日にも制裁拡大の方針を発表していた。EUはこの時点で、個人だけでなく、ロシアの企業も対象に加える方向に指針を転換。また、◇欧州投資銀行(EIB)の対ロシア新規投資の凍結◇EU・ロシア政府間の提携プロジェクトの見直し――も行う。今後の制裁拡大では、◇金融制裁◇兵器禁輸◇軍事転用可能な民生品(デュアルユース)の禁輸◇エネルギー分野向けを含むハイテク技術の禁輸――などが検討されている。

米国は石油最大手ロスネフチや天然ガス2位のノバテク、金融大手ガスプロムバンク、政府系のロシア開発対外経済銀行(VEB)といった主要企業に米国市場での資金調達などを禁じる金融制裁を課した。

これまでの制裁は、政治家など主に個人を対象に、入国禁止・資産凍結措置を適用するものだった。その効果については意見が分かれるとしても、ウクライナ情勢の不透明感がロシア経済に影を落としつつあることは確かなようだ。株価や通貨ルーブルの為替相場は急落とまでいかないが、じりじりと下落している。国外への資金流出も加速し、インフレ率も6月には7.8%まで上昇した。

このような背景から、欧米が今後の制裁強化でロシアへの圧力を高めることは可能とみられている。ただ、ロシア経済の専門家は「追い詰めすぎると逆効果になる」と指摘しており、「さじ加減」を見極められるかどうかがカギとなりそうだ。

■原因調査がようやく始動

マレーシア航空機がミサイル攻撃を受けて墜落したという点では、欧米もロシアも見方が一致している。しかし、誰が発射したかでは、ウクライナ側と親ロシア派の意見が真っ向から対立。互いに相手側の仕業と非難しあっている。ロシア政府は関与を全面否定しているが、21日の時点で軍が記者会見を開き、ウクライナ政府軍が撃墜したとの見方を示した。

プーチン大統領は22日、国際世論がロシアへの批判を強めていることを受けて「事故原因の解明に協力する」ことを約束した。一方で、「ウクライナ政府軍がウクライナ東部で軍事行動を再開しなければ起こらなかった悲劇」であり、事件の責任は「ウクライナ政府にある」との説明を繰り返している。

墜落地点は、ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力との衝突が続くドネツク州の親ロシア派勢力圏にある。高度1万メートルを航行中に破壊されたため、機材や犠牲者の捜索範囲は数十平方キロメートルの広域に及ぶ。証拠収集のためにはいち早い調査が肝要だ。

しかし、墜落の報を受けて現場検証に向かった国際経済協力機関(OECD)の専門家は親ロシア武装集団に立ち入りを拒まれた。航行速度や高度などの飛行情報を収めたフライトレコーダーとコックピット内の音声を記録するボイスレコーダーも親ロシア派が回収・保管するという状況で、現場保存が確保できない懸念が強まった。このため、国連安全保障理事会は21日に緊急会合を開き、ロシアを含む全会一致で決議を採択。撃墜を強く非難するとともに、事件の公正な調査を求めた。

ロシアも採択に同意したことで、ようやく調査が動き出した。OECD専門家の現場調査や遺体搬送、フライトレコーダーとボイスレコーダーの引渡し・分析といった具体的作業が進みつつある。

最も多くの犠牲者を出したオランダが調査作業を監督する。遺体の身元確認もオランダで実施する。フライトレコーダーとボイスレコーダーの解析はオランダの委託を受けて英国の航空事故調査委員会(AAIB)が担当する。

墜落した航空機には乗員15人を含む298人が搭乗していた。国籍別の犠牲者数はオランダが193人、マレーシアが43人、オーストラリアが27人、インドネシアが12人、英国が10人、ドイツとベルギーが各4人、フィリピンが3人、カナダとニュージーランドが各1人だった。

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