2014/11/26

コーヒーブレイク

アメリカ大陸はイスラム教徒が発見

この記事の要約

トルコのエルドアン大統領といえば最近大豪邸に引っ越して話題を呼んだばかりだが、今度は世界史を書き換えようとしているようだ。 「アメリカ大陸はコロンブスよりも前にイスラム教徒が発見していた」――宴席の戯言ではない。れっきと […]

トルコのエルドアン大統領といえば最近大豪邸に引っ越して話題を呼んだばかりだが、今度は世界史を書き換えようとしているようだ。

「アメリカ大陸はコロンブスよりも前にイスラム教徒が発見していた」――宴席の戯言ではない。れっきとした大統領発言である。

発言の根拠は1976年に米国の歴史家が発表した論文だ。それによると、世界史上のアメリカ大陸の発見者クリストファー・コロンブスがキューバ近海を航行中、山の頂にモスクを見た――と航海日誌に記述。これこそがコロンブスの発見より先に「アメリカ大陸にイスラム教が浸透していた」証拠だとしている。歴史家はコロンブスの記述は「山頂の形をモスクに例えた比喩」とみており、論文の内容には否定的である。しかし大統領はこの論文をよりどころに、イスタンブールで開催された中南米のイスラム教指導者との会合の席で「アメリカはイスラム教徒が発見した」と言い切ったのである。

大統領の発言を補完すべく、政府に近いメディアも証拠さがしにご執心だ。例えば、アメリカはノースダコタ州のヘイゼン(Hazen)という町名は、アラビア語で「悲しい」を意味する言葉が元になっている――いう具合である。もっとも当のヘイゼン市は町名について、19世紀の郵便局員「A.D.ヘイゼン」に因む、とにべもない。

さすがに国際世論も「アメリカ大陸イスラム教徒発見説」に懐疑的だ。むしろ大統領の発言は政治的なものと捉える論調が目立つ。大統領はかねてからオスマン帝国を引き合いに、トルコは数世紀に渡ってイスラム世界の旗手であったと公言してはばからない。バルカン半島のアルバニアでは同地域最大のモスク建設をトルコ政府が援助している。イスラムの威光を大統領自らが煽り、政府やメディアがお膳立てを整えることで、トルコは粛々と、イスラム圏の盟主たらんとする野望に向かって進んでいる――というのが海外メディアの見立てである。

なおエルドアン大統領、キューバ政府の許可が得られれば、コロンブスの見た山頂に再びモスクを建設したいと希望しているという。