ボスニアの主要輸出品に含まれる牛乳。主な仕向け先はクロアチアで、年8,000万リットルを供給していた。ところが、2013年にクロアチアが欧州連合(EU)に加盟した途端、これが激減した。EUの衛生基準を満たしていることを証明できないからだ。業者は自分で飲むか、安価でアルバニアに輸出するかの選択を迫られた。
しかし、クロアチアの加盟はずっと以前から予想しえた事柄だ。ボスニア当局が前もって国内制度を改めれば十分に対応できたはず。しかも、問題が公になってから2年経っても事態は改善していない。これが同国の現状を象徴的に表している。
ボスニア戦争から20年が過ぎようとしているが、ボスニア人が夢みたEU加盟、少しずつでも暮らしが良くなるとの望みは、いまだに手が届かない彼方にある。あきらめと失望が国民の中に広がり、政府に抗議する気力もないようだ。
汚職や経済の失策への不満が爆発した昨年の反政府デモも、政治家は自らに火が飛んでこないよう、民族間の対立をあおって身を守った。常とう手段だが、いまだに効果がある。
公平さを求める声が、国民自身の偏見にうずもれていく。政治を変えるには、まず自らの不公平さを見直し、克服することが必要なのかもしれない。