大統領のユニフォームと民族主義~クロアチア

サッカー世界選手権(W杯)の決勝戦。負けたクロアチアチームの選手を慰め、その健闘をたたえるコリンダ・グラバルキタロヴィッチ大統領の姿はクロアチア国民の「母」を印象付けた。数週間前からW杯フィーバーを率い、フェイスブックではユニフォーム姿でサッカーの話題ばかりを扱った。スポーツでの活躍に沸くクロアチアの象徴とみられたが、そんななかで「大統領の右傾化」を警戒する声がある。

グラバルキタロヴィッチ大統領は米国の高校・大学への留学経験があり、「レーガン大統領期及び冷戦末期の米ソ関係」で卒論を書いた。中道右派・クロアチア民主同盟(HDZ)のサナデル元首相に重用されて政界入りした。

主に外交で活躍し、外相のほか、欧州統合相、在ワシントン大使、北大西洋条約機構(NATO)事務次長補などを歴任。2015年の大統領選で与党候補を僅差で破り、クロアチアで女性として初めて大統領に就任した。

HDZはサナデル元首相の主導で中道・親欧州路線を明確にしたものの、その後の揺り戻しで保守色を強めている。そんな中、国際舞台での経験の深いグラバルキタロヴィッチ大統領は、党内や国民の支持を狙ってか、民族主義的な発言を増やしている。

旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷で昨年11月、ボスニア内戦の戦犯として有罪判決を受けたスロボダン・プラリャク被告が判決直後に法廷内で服毒自殺した事件では、プラリャク氏を英雄視する国民の側に立ち「国民は深く胸を痛めている」と発言。ナチス・ドイツと同盟を結んだクロアチアのウスタシャ政権が第2次世界大戦中に運営し、「バルカンのアウシュビッツ」の異名をとるヤセノヴァツ強制収容所については、「その『真実』を解明する歴史家会議設置」を要求した。

ヤセノヴァツ強制収容所についてはすでにきちんとした研究の成果が存在し、ユダヤ人、セルビア人、ロマ、政治的反対派ら8万人以上が殺害された事実が明らかになっている。既存の研究を「真実」ではないと示唆する発言は、「アウシュビッツの嘘」を主張する「歴史修正主義」と変わらない。

グラバルキタロヴィッチ大統領の姿勢は、第2次世界大戦であろうが、ユーゴ内戦であろうが、クロアチア人の罪を認めたくない民族主義者を勢いづける。政治や宗教を超えて代表チームを応援し、国の一体感を強めるはずのW杯が、国内の対立激化に利用される――なんと皮肉なことだろうか。

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