ロシアの実業家オレグ・デリパスカ氏が先月中旬、傘下の商用車最大手GAZに対する「米国の制裁解除の見通しは暗く、制裁が本格発動されれば倒産は免れない」と発言したことに対し、「解除の可能性はある」という業界専門家の声が上がっている。「米国当局との交渉が続いており、常識的にみれば双方が合意に達するはず」という見方だ。
昨年4月の米国による対ロ制裁強化に伴い、デリパスカ氏が制裁リストに加えられたことで、GAZのほかアルミ大手ルサールとその親会社Enプラスなど、同氏が過半数出資する企業も制裁の対象となった。米国人・企業との取引はすでに禁じられているが、非米国人・企業については来月6日まで禁止措置の発動が猶予されている。
Enプラス及びルサールは、デリパスカ氏が出資比率を引き下げたことで制裁解除に成功した。しかし、GAZについては同氏が同じ提案を行っているにも関わらず、交渉が遅れているという。その背景には、ルサールが米国でも事業を展開しており、制裁の行く末が米経済にも影響を与えるため、米当局が決着を急いだことがあるようだ。GAZは米国との関連性が小さいため、緊急性が小さい。
GAZはデリパスカ氏への制裁発動で、すでに部品調達が困難になっている。サプライヤーが制裁波及を恐れて取引に慎重になっているためだ。GAZに小型商用車の生産を委託していた独ダイムラーは昨年8月、主要サプライヤーの納品中止を理由にGAZでの生産を打ち切った。独フォルクスワーゲン(VW)もGAZと提携しており、増産に向けて今後5年間で約6億5,000万ドルを投資する計画だが、GAZの将来が不透明なため最終決定には至っていない。
デリパスカ氏は米国の制裁が正式に発動した場合、国営化以外にGAZ存続の選択肢はないとみている。自動車市場調査会社オートスタットのモルハレット氏はこれに対し、「当事者間の交渉が続いており、制裁が発動されるとは考えづらい」とみる。投資銀行アトンのガネリン氏も「制裁する側も含めて、倒産を望む者はいない」と話している。