欧州委員会は9日、2030年までの実現を目指すデジタル政策のビジョンや目標を盛り込んだ「デジタル・コンパス」を発表した。次世代半導体の域内生産の拡大をはじめとするデジタルインフラの整備や、情報通信技術(ICT)分野の人材育成、公的サービスのデジタル化などを柱とする内容。半導体やデータ管理などデジタル分野で米国や中国などへの依存度を低減し、欧州のデジタル主権の確立を目指す。
欧州連合(EU)は新型コロナウイルス感染拡大で傷んだ経済の再生を目指して創設した総額7,500億ユーロの復興基金のうち、中核をなす復興・強靭化ファシリティ(RRF)の20%をデジタル分野に投じる方針を打ち出している。欧州委は2月に採択されたRRFの運用ルールに基づき、30年までにデジタル移行を実現させるための具体的な道筋や目標を検討していた。
デジタル・コンパスは4つの柱からなる。1つ目は市民のデジタルスキル向上と高度な専門性を持つ人材の育成で、具体的には30年までにICT分野の専門家を19年の780万人から2,000万人に増やすほか、成人の80%が基本的なデジタルスキルを身につけるようにする。
2つ目は安全・高性能・持続可能なデジタルインフラの整備。EU域内で生産する次世代半導体の世界シェアを現在の10%から20%以上に引き上げるほか、域内の全ての人口密集地で第5世代移動通信システム(5G)網を整備する。さらにEU初の量子コンピュータの導入を目指す。
3つ目はビジネスのデジタル変革。域内の75%の企業がクラウドサービスや人工知能(AI)、ビッグデータを活用できるようにするほか、域内のユニコーン企業(企業価値が10億ドルを超える創業10年以内の未上場企業)を現在の2倍強の250社に増やす。
4つ目は公的サービスのデジタル化で、全ての主要な公的サービスをオンラインで利用可能にするほか、全てのEU市民が電子カルテにアクセスできるようにする。
欧州委のフォンデアライエン委員長は「今回のパンデミックを通じ、あらゆる側面でデジタル技術やスキルの重要性が明らかになった。全てのEU市民と企業がデジタル世界で提供される最高のサービスを利用できるよう、『デジタル化の10年間』を実現しなければならない。デジタル・コンパスはそのための道筋を明確に示している」と述べた。