覚せい剤「クリスタルメス(メタンフェタミン、日本での商品名:「ヒロポン」)」の「生産拠点」がチェコからオランダに移りつつある。チェコにおける取り締まりが強化されたためで、「供給ルート」も変化しつつあるという。
東西冷戦時代、社会主義圏ではコカイン、マリワナ、ヘロインなどの麻薬はほとんど流通していなかった。社会主義国の政府は麻薬を「資本主義」の問題と宣伝していたが、実際のところ、「東」の若者の関心も強く、当時のチェコスロバキアでは「自家用」に作る人々が出てきた。
体制転換後はその「ノウハウ」のおかげでチェコがクリスタルメスの「欧州生産基地」に「昇格」。年産規模は10トン強、過去5年間に摘発された違法ラボは約230カ所に上った。その多くが「主要市場」であるドイツとの国境近くにあった。
ところが、最近になって状況が変化してきた。オランダはこれまでも合成麻薬の「生産大国」として知られてきたが、「エクスタシー(MDMA)」や「スピード(アンフェタミン)」に代わってクリスタルメスが多く作られるようになり、その生産量でチェコを抜いて欧州「トップ」になったようなのだ。
チェコは以前、薬物規制の緩さで有名だったが、2017年に薬物取締法が改定され、禁止薬物(成分)が63種に増えた。また、同法に基づく取り締まりも強化された。これを受けて組織犯罪集団の動きが変化し、5キロ以上生産する「拠点」が他国に移った。
ドイツ当局はチェコ国境付近よりもオランダと国境を接するノルトライン・ヴェストファーレン州で多くのクリスタルメスを押収するようになり、同州から国内の各地に至る「流通ルート」も確認された。
オランダの麻薬違法取引はメキシコ・マフィアの手中にあると言われる。昨年の夏にはオランダ警察が欧州警察機構(ユーロポール)と連携し、ロッテルダムで2,500キロものクリスタルメスを押収した。1キロ当たりの時価が1万4,000ユーロというから半端ではない。
ところで、新型コロナの流行も「流通」に一定の影響を与えているようだ。チェコからドイツへ入国する際の国境検査が厳しくなったため、一般道路ではなく検査官のいない森林地帯などを通って密輸するケースが増えている。一方、行き来の自由なドイツ・オランダ間ではドイツ人がオランダへ行って「調達」する例も多い。