格付け大手の米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は17日、ルーマニアの信用格付け見通しを従来の「弱含み」から「安定的」に引き上げた。政権基盤の安定化で大幅な財政不均衡への懸念が縮小したほか、新型コロナによる経済への打撃が比較的小さかったことなどが好材料となった。格付け自体はBBBマイナスに据え置いた。
S&Pはまず、2019年に当時の社会民主党(PSD)政権の主導で可決された年金法改正を、後続の国民自由党(PNL)政府が撤回したことで、支出膨張が妨げられたことを評価した。この改正では、年金支給額の4割増加が予定されていた。
S&Pはまた、年金政策の変更で、改革実行のデッドラインが24年まで延び、時間的余裕が生まれたとしたうえで、歳入増に向けた改革をうながした。具体的には、付加価値税(VAT)の脱税取り締まり強化を挙げた。
経済面では、2020年の経済縮小幅が3.9%にとどまり、今年は5%の成長が見込まれるなど、危機に際しての強さが評価された。新型コロナの影響からの復興支援を目的とする欧州連合(EU)の復興・強靭化ファシリティ(RRF)から、国内総生産(GDP)の6.5%に相当する補助金と、同7%の低利融資が受けられることも経済の見通しを明るくしている。
国家債務については、政府の財政均衡政策が奏功し、債務総額が中期的にGDPの50%前後で安定し、利払いが政府収入の5%未満にとどまると見込む。ルーマニアの政府債務は昨年末現在でGDPの42.9%と、前年末から10.9ポイント上昇した。今後も増加し、今年末には48.5%、2023年末には51.3%に達するが、その後縮小に転じるとみられている。
今年の財政赤字(対GDP)については、政府予想の7.16%よりやや低い7%と予測。また、24年には3%へ低下するとみる。
S&Pは19年12月、年金法改正を理由にルーマニアの格付け見通しを「弱含み」に引き下げた。しかし、不安定な少数政権を率いてきた国民自由党(PNL)が昨年秋の選挙後にルーマニア救出同盟・自由統一連帯党(USR-Plus)らと連立政権を樹立。フロリン・ヴァシレ・クツ前財相が首相に就任し、段階的な財務健全化と経済復興を主目標に据えたことが、信用回復につながった。
格付け会社による評価改善が早くとも年末になるとみていたクツ首相は、S&Pの判断を歓迎するとともに、借入コストの低下で経済回復のペースが上がるとコメントしている。