過疎の村に希望をーブルガリアの星付きシェフー

ブルガリア北西部のヴィディン州は欧州連合(EU)のなかでも貧しく、過疎・高齢化が急激に進んでいる地域だ。そこにある村の一つ、スタケフチでレストランを開業しようという人がいる。ミシュランガイドで認定を受けた星付きシェフ、フィリップ・ザハリェフさん(35)だ。

ザハリェフさんはヴィディン州の首都、ドナウ河畔のヴィディン市で育った。小さいころから料理をするのが好きで、「サッカー選手にもラップアーティストにもなれなければコックになる」と思っていた。イタリア、フィンランド、ノルウェーで修行を積んだほか、世界各地を旅してアイデアを集めた。最後にはノルウェーの北部、北極海に浮かぶスピッツベルゲン島のレストラン「グルーヴェラーゲレ」の料理長を6年務めた。

故郷を離れて18年経った昨年秋、ヴィディン州に戻り、セルビア国境から3キロに位置するスタケフチ村でレストランを開業することにした。レストランが人を呼び、地域にお金を落としていくと考えたからだ。

スタケフチの衰退は激しい。1960年代には3,000人を数えた住民も今では130人に減った。ほとんどが70代の老人だ。空き家は廃屋となり、息をのむような美しい風景と庭に植えられたラズベリーの茂みだけが以前の面影を残している。

北西部の過疎化が急速に進んでいるとはいえ、人口流出はブルガリア全体の問題だ。社会主義政権が崩壊した1989年以来、同国の人口は900万人から700万人強まで減った。戦争難民を出したシリアやボスニア・ヘルツェゴビナよりも減り方が激しい。独フリードリヒ・エーベルト財団のソフィア支部では、人口減少は今後も継続し、20年後には現在の4分の3に縮小すると予想している。

ヴィディン市に限ると、10年後には4分の3に減り、その後も年間16%ずつ減っていくとみられている。若い世代の流出が止まらない一方で、生活水準の低さ、医療サービスの不足から死亡率が高いことが、急激な人口減の背景にある。

ザハリェフさんの店は行政手続きや改装工事の遅れで未だにオープンできないでいる。貯蓄も底をつきかけているが、「村おこし」の一助となりたい願いは消えない。村の「古き良き時代」を知る住民たちにとっては、この意欲だけでも明るい光に見えているに違いない。

上部へスクロール