1930年代にチェコスロバキア(当時)政府がナチス・ドイツの侵攻に備えて築いた掩蔽壕(えんぺいごう)が売りに出されている。軍事的な役割がなくなったため、管理者であるチェコ軍が処分を進めているもので、現地の地方自治体へ譲渡するほか、民間人へ販売している。大小合わせてその数は5,000件弱。これまでに小型のもの1,767件、大型のもの112件の持ち主が変わったという。
ヒトラー率いるナチス・ドイツは、ドイツ系住民の多い国境地帯(ズデーテン地方)の割譲を要求していた。ドイツ側の姿勢が強硬化した1930年代末、チェコスロバキアは防衛のため国境沿いに防衛ラインを築いた。38年9月にズデーテン問題をめぐって、ヒトラーとチェンバレン英首相、ダラディエ仏首相がミュンヘンで会談した時点ではまだ完成していなかった。それでも、山脈という自然の防壁との組み合わせでドイツ国防軍にとっては侵攻時の最大の障壁を意味していた。
ヒトラーの割譲要求に対し、チェコスロバキア政府は国境地帯に110万人の兵士を動員し戦いに備えていた。ところがミュンヘン会議で英仏両首相がドイツのズデーテン地方併合を認めたため、チェコスロバキアの防御ラインは戦闘なくしてドイツの手に落ちた。1945年にソ連軍が進軍して来た際、ドイツ軍の防衛に使われたというから皮肉だ。
さて、時代は過ぎて戦闘の形も変化した。今となっては掩蔽壕も戦争の役には立たない。チェコ軍はホームページで売却物件を紹介しているが、気になるお値段は、競売のために幅があるもののおよそ「1,000ユーロから数万ユーロ」。ワイン栽培地帯にある物件は「地の利」で通常の4倍することもあるという。
掩蔽壕の愛好家が作る「チェコスロバキア要塞友の会」のマルティン・ラボン代表は、購入時に注意する点として、◇物件の位置を確認(山奥にあることが多い)◇掩蔽壕周辺の地所の所有者があるかどうかを調査◇地主が分かれば、まず土地を取得――を指摘する。ほとんどは条件が悪すぎて買わない方が良いという。
「要塞友の会」は2つの壕を管理して、博物館として公開している。交通の便の良い所に位置するため見学者も多く、今年の7月と8月はひと月当たり2万人以上が訪れた。