ポーランド国産車シレーナ、EVで復活へ

●シレーナはかつての社会主義圏の自動車産業の象徴

●ポーランドはEV普及に向けての課題多く

ポーランドの自動車メーカーが国産電気自動車(EV)の生産に乗り出している。歴史的メーカーであるFSOシレーナ(FSO Syrena)が試作車を発表したほか、EV専業メーカーが立ち上げられるなど市場参入の動きが相次ぐ。政府もそれを後押しするが、国外での需要の創出や国内の充電インフラの現状など課題は多く、本格生産に向けた体制は整っていない。

FSOシレーナは2019年、政府および医薬品メーカーのポルファルメックスの資金支援により試作車を開発した。欧州連合(EU)も総額744万ズロチ(160万ユーロ)の開発費用のうち450万ズロチを援助している。

同国ではまた、政府の支援の下で国営電力企業4社により設立されたEVメーカー、エレクトロモビリティ・ポーランド(EMP)が昨年夏に初のモデル「イゼラ(Izera)」を発表した。同モデルは英レンジローバーの「ベラール」やレクサス「RX」の中間の車格で、EMPは2023年から生産を開始する方針だ。

FSOシレーナが販売開始を目指す「ボスコEV2」はカルトモデル「シレーナ」の後継に位置付けられ、サブコンパクトカーや欧州のBセグメント及びCセグメントに属している。鉄鋼の代わりに複合材料を用いており、同セグメントの車両に比べ20キログラム軽量化されているのが特長だ。全長は4,221ミリメートル(mm)、車幅は1,710mm、車高は1,513mm。バッテリー容量は31.5キロワット時(KWh)で、走行可能距離は290キロメートル(km)とされているが、同社によると実際の走行距離は210kmから250kmとなる可能性がある。バッテリーの充電時間は出力30キロワットの急速充電器で1時間、一般の家庭用電源では10時間から11時間が必要だ。

しかしながら同車は依然として試作の初期段階にあることに加え、プラットフォームの供給元も確定しておらず、工場の建設についても発表されていない。その上、政府によると生産台数は初年度50台、3年後に300台と限定的だ。

同国の自動車産業の知名度は低いが、社会主義時代からFSOが多くの車両を生産してきた。2011年まで生産された「シレーナ」の累計生産台数は52万台に上る。同モデルはチェコの「シュコダ」、東ドイツの「トラバント」と並び社会主義圏の自動車産業の象徴だったが、FSOシレーナのクツノ工場は近年、軍用車両の生産に特化している。

ポーランドは自動車の所有者数で欧州第5位、平均車齢は14年。EVへの乗り換えに対する政府の補助金はこれまで1万人に支給されている。しかし、国内市場は大量生産でコストを引き下げられるほど大きくはなく、海外市場の開拓が必要だ。また国内では充電施設の絶対数が依然不足している。

ドイツ・ポーランド代替燃料協会(PSPA)のマズール氏によると、同国で現在稼働しているバッテリー駆動車(BEV)の数は1万6,000台。同氏は「ボスコEV2」が国産車というだけで他社の車両と競合するのは厳しく、ある程度の品質が必要だと話す。また同モデルの発売は早くても2024年末で、これでは遅すぎると評価する。外国市場はさらに厳しいとの見方だ。

「ボスコEV2」は日産「リーフ」、ホンダ「e」、フォルクスワーゲン(VW)「ID.3」、BMW「i3」やミニクーパー「SE」、オペル「コルサe」、プジョー「e-208」、ルノー「ZOE」、現代自「IONIQエレクトリック」など競合する車は多い。生産が始まる頃にはさらに同セグメントの競争は激化している見通しだ。(1PLN=27.77JPY)

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