●ロシアとの関係を重視するトルコからの安定調達には疑問符
●「南回廊」の輸送能力はロシア産ガスの輸入量に遠く及ばず
欧州連合(EU)の新たな天然ガス調達ルートとしてトルコを有力視する意見が浮上している。ドイツの与党・キリスト教民主同盟(CDU)系のシンクタンク、コンラート・アデナウアー財団(KAS)が会員向けにまとめた調査によると、EUがカスピ海沿岸諸国や東地中海で算出されるガスを「南回廊」経由で輸入することになれば、ロシアの代わりにトルコが主要調達先になる可能性があるという。ただ、トルコがロシアとの関係を重視していることから、安定した供給が保証されるかどうかには疑問符が付く。
「南回廊」は、◇南コーカサス・パイプラインの拡張[バクー・トビリシ・エルズルム・パイプライン]◇アナトリア横断パイプライン(TANAP)及びアドリア海横断パイプライン(TAP)の敷設――を経て2020年12月に開通した。カスピ海に面するアゼルバイジャン、トルクメニスタン、イランから、ロシアを経由せずに天然ガスを欧州へ輸送することを念頭に置いて整備された。
一方、東地中海では2009年以来、新たな天然ガス田が相次ぎ発見された。しかし、市場動向やインフラ不備などから輸出が順調に進んでこなかった。トルコが最近になり、同地域にガス田を持つイスラエルとの関係修復に取り組んでいることなどから、KASではトルコ経由の輸送実現を射程内とみているもようだ。
ただ、トルコは2015年以降、ロシアとの関係を急速に深め、現時点では、安全保障政策、エネルギー政策、経済のいずれにおいてもロシアに依存する立場にある。このため、ロシア軍のウクライナからの撤退を求める国連決議には賛成しながらも、欧米の対ロ制裁には参加しないなど、ロシアと欧州の間で均衡を重視した判断を試みている。複雑な内政問題や経済危機に直面する中で、欧州接近策に転換する可能性は小さく、天然ガス調達先としての信頼性に懸念が残る。
さらに、EUのロシア産天然ガスの輸入量が年間およそ1,550億立方メートルに上るのに対し、南回廊の輸送能力はバクー・トビリシ・エルズルム区間が250億立方メートル、TANAP区間が160億立方メートル、TAP区間が100億立方メートルにとどまる。南回廊経由のガスがロシア産に取って代わるとしても、パイプラインの強化が必要で、近い将来の解決策にはならなそうだ。