2022/7/6

総合・マクロ

ロシアが「サハリン2」事業主体変更の大統領令、日本側に揺さぶり

この記事の要約

●政府肝いりのLNG調達、三井物産と三菱商事が権益失う可能性●サハリン2の輸入量は全体の8%、LNG調達競争は一段と激化かロシアのプーチン大統領は6月30日、三井物産と三菱商事が権益を持つ極東の石油・天然ガス開発事業「サ […]

●政府肝いりのLNG調達、三井物産と三菱商事が権益失う可能性

●サハリン2の輸入量は全体の8%、LNG調達競争は一段と激化か

ロシアのプーチン大統領は6月30日、三井物産と三菱商事が権益を持つ極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の事業主体を、現在のサハリンエナジーから新設するロシア企業に変更する大統領令に署名した。サハリンエナジーの持つ資産を新会社に無償譲渡することを命じるもので、日本企業が権益を失った場合は液化天然ガス(LNG)の調達に影響が出ると予想される。ウクライナへの軍事侵攻を受けた欧米の対ロ制裁に日本が足並みを揃える中、日本側に揺さぶりをかける狙いがある。

大統領令によると、新会社はサハリンエナジーが保有するすべての資産を引き継ぐ。筆頭株主の国営ガスプロムは引き続き権益を維持するが、他の株主はロシア政府に対し1カ月以内に出資分に応じた権益の保持を申請し、承認を受けなければならない。

サハリン2にはガスプロムが50%プラス1株、英石油大手シェルが27.5株マイナス1株、三井物産が12.5%、三菱商事が10%を出資する。シェルは2月末に同プロジェクトからの撤退を発表したものの、権益の売却先は決まっていない。

日本はLNGを輸入に大きく依存しており、サハリン2は輸入量の8%を占める。今回のロシア政府の方針を受けて萩生田経済産業相は「ただちにLNGの輸入が止まるわけではない」との見通しを示したものの、サハリン2からの供給が仮に途絶えた場合は代替の調達先を見つけなければならない。LNGの調達競争は一段と激化し、世界的なエネルギー価格の高騰に拍車がかかる可能性がある。

サハリン2は世界のLNG流通量の約4%を供給している。クレディ・スイス・グループでエネルギーおよび資源調査を統括するソール・カボニック氏は、「サハリン2のようなロシアのLNGプロジェクトは制裁により西側の専門知識や必要な設備類を利用できなくなっており、時間の経過とともに事業が困難になることが予想される。このため、今後10年で世界のLNG市場は大きく縮小するだろう」と指摘。「ロシア政府の関与が増すと、多くの買い手にとりこれらのプロジェクトからの調達が困難になるだけだ」と述べた。