●CPCパイプラインはカザフ産石油の唯一の対欧州輸出ルート
●ウクライナ戦争でカザフはロシア支持の姿勢をとらず
ロシアの高等裁判所は11日、カザフスタンとロシアを結ぶ石油パイプラインを運営するカスピ海パイプライン連合(CPC)の営業停止処分を見直し、20万ルーブル(3,300米ドル)の罰金刑に代える判決を下した。これにより、カザフの原油輸出ストップをめぐる懸念がまずは解消することとなった。
CPCの運営するカスピ海パイプラインは、カザフ産石油の唯一の対欧州輸出ルートだ。同国の石油輸出の80%、世界の石油供給の1%を担っている。ロシアの一審判決通り、30日間稼働を停止することになれば、天然資源が経済を支えるカザフにとって大きな打撃となるのは間違いない。原油輸送を停止すると技術的に再開できるかどうかわからないという懸念もあり、CPCは上訴していた。
ロシア当局は「原油流出の懸念」を理由にCPCの行政処分を決めたが、その裏にはロシア・ウクライナ戦争に関連してカザフがロシア支持にまわっていないことがあるとみられている。
カザフのカシムジョマルト・トカエフ大統領は先月、親ロシア派の支配するウクライナのルハンスクとドネツクを独立国と認めることを拒否した。また、欧州に対しては、エネルギー調達に協力する姿勢を示していた。このため、ロシアがCPCの業務停止でカザフスタンにゆさぶりをかける狙いだったという説明が成り立つ。
トカエフ大統領は第一審判決の翌日に当たる今月7日、政府に対して石油輸出ルートの多様化を命じた。ロシアを迂回するカスピ海パイプライン新設も検討対象に入れている。また、自国を経由してロシアとベラルーシへ輸送される貨物のうち、欧州連合(EU)および米国の制裁リストにある物品の輸送を禁止するかどうかについて、今月22日まで公の場で検討することとした。
カザフは可採埋蔵量70億~100億バレルのテンギス油田を擁する。開発に米国の石油メジャー、シェブロンとエクソンモービルが参加しており、両社との関係悪化は避けたいところだ。
CPCはカザフとロシアの合弁事業で、筆頭株主は24%を保有するロシア政府系のトランスネフチ。他に、ロシア石油大手のルクオイルが12.5%、ロシア国営ロスネフチと英蘭系シェルの合弁会社が7.5%、カザフスタン政府が20.75%、米国のシェブロンが15%、エクソンが7%を持つ。残りは他の国際企業・連合やロシア政府が握る。
テンギス油田の昨年の生産量は日量53万4,000バレルだった。カスピ海パイプラインはテンギス油田とロシアのノボロシースクを結ぶ。全長は約1,500キロで、昨年は日量120万バレルを輸送した。(1RUB=2.29JPY)