ロシア産ガス価格に上限設定へ、エネ高騰で欧州委員長が検討表明

●EU全体で制度を導入し、エネ価格高騰に歯止めをかける狙い

●電力価格がガス価格に連動している現行制度も改める方針

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は2日、エネルギー価格高騰への対応策として、ロシアから輸入する天然ガス価格に上限を設定する方向で検討していることを明らかにした。スペインなどすでに一部の加盟国は発電に使用するガス価格に上限を設定しているが、短期的な介入策として欧州連合(EU)全体で同制度を導入し、高騰に歯止めをかける狙い。9日にブリュッセルで開く臨時のエネルギー相理事会で議論される見通しだ。

フォンデアライエン氏はドイツ南部ムルナウで開かれた保守派議員との会合で講演し、「プーチン(露大統領)の行動によってEUの電力市場が著しく損なわれた」と非難したうえで、「欧州にパイプラインで運ばれるロシア産天然ガスに価格上限を設けるべきだと考えている。価格上限はEUレベルで設定することが可能だ」と発言。また、価格高騰で予定外の利益を得ているエネルギー企業への課税を強化し、苦境に立つ低所得層や企業への支援に充てることも有効な対策になりうると説明。「危機的状況における緊急措置として、予定外の超過利潤に対して課税できる法的根拠もある」と述べた。

また、フォンデアライエン氏はこれに先立ち、電力価格がガス価格に連動している現行制度を改める必要があるとして、両者の切り離しによる電力市場の構造改革に着手する考えを示した。8月29日にベルリンでハーベック独経済相と会談した際に明らかにしたもの。EUでは電力価格は実質的にガス価格と連動しているため、再生可能エネルギーによる発電コストは比較的低く抑えられているにもかかわらず、天然ガス価格の高騰によって電力価格が記録的な高水準で推移している。フォンデアライエン氏は今月14日に短期的な介入策とともに、中長期の改革案を含む包括的な対応策を提示する方針を示している。

こうした中、ロシア国営ガスプロムは2日、欧州向けガスパイプライン「ノルドストリーム」の稼働停止を延長すると発表した。保守点検を理由とする停止は9月3日朝までの予定だったが、オイル漏れが見つかったため問題が解決するまで完全停止すると説明している。稼働の再開時期は明らかにしていない。

ロシアから欧州へのガス供給は6月から大幅に減少しているが、ガスプロムは7月下旬、タービンの修理を名目にノルドストリーム経由の供給量を従来の2割程度に削減。8月31日から定期点検の名目で稼働を一時停止していた。

主要7カ国(G7)は2日、オンラインで財務相会合を開き、ロシア産石油の取引価格に上限を設けることで合意した。12月5日に原油の上限価格を導入し、来年2月5日に石油製品に対象を拡大するという内容。保険会社に対し、上限を超える価格で取引されたロシア産原油や石油製品を運ぶ船舶に保険サービスを提供しないよう義務付ける。具体的な価格設定など詳細は今後詰めるが、世界規模でエネルギー安定供給を確保しながら、ロシアに戦費を稼がせないようにするのが狙い。欧米が足並みを揃えて制裁に踏み切れば、ロシアには痛手となる。

ノルドストリームの稼働停止について、ロシア側は一貫して技術的な問題と主張しているが、G7の決定に合わせて同措置が延長されたことで、西側諸国への対抗措置との見方も出ている。ロシアが長期にわたりガス供給を停止させた場合、暖房需要が高まる冬場に向けて天然ガス価格がさらに高騰し、記録的なインフレが一段と加速して家計や企業活動を圧迫し、欧州経済が冷え込む恐れが指摘されている。

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