事の始まりは、ごく普通のツイートだった。それが数日の間に、「見せかけの『住民投票』でロシアのカリーニングラード州がチェコに編入された」というジョークの嵐を呼び起こした。もちろん、これはロシアによるウクライナ4州の「住民投票」のパロディだが、ロシア人のなかには真剣に受け止めた輩もいるらしい。
「ロシアにできるならチェコにもできる」――チェコの冗談好きがツイッターで話をどんどん紡ぎだした。まずは、チェコによるカリーニングラード州の編入の是非を問う「バーチャル住民投票」の実施が告知された。投票用紙の選択肢は「賛成」と「もちろん(賛成)!」の2つ。結果は「賛成が102%」となり、本国もカリーニングラードの編入を「歓迎」した。名前は、13世紀にドイツ騎士団が現在のカリーニングラード市周辺を征服したときに加勢したボヘミア王オトカル2世をたたえ「クラーロヴェツ(「王」の意)」に改称された。
「併合」後のカリーニングラードをテーマに大量のコラージュやミームが投稿された。チェコを代表するアニメキャラクター「もぐらのクルテク」がバルト海の海岸で甲羅干ししたり、散歩したりしている様子や、天気予報の画面にカリーニングラードが含まれている画像などがみられた。もちろん、イケア「再進出」のニュースも流れた。
今や「海港を得たチェコ」には「海軍」もある。「領海」を空母「カレル・クラーロヴェツ(カレル王)」や潜水艦「ヘレナ・ヴォンドラーチュコヴァー(有名歌手の名前)」がパトロールする。
カリーニングラードに電話をかけたプーチン大統領は、ロシア語の「もしもし(ストラストヴィチェ)」の代わりに聞こえるチェコ語の「アホイ」に驚き、さらにカリーニングラードに来るには「ビザ取得が必要」と説明を受ける。
チェコ本国とを結ぶパイプライン「ビール・ストリーム」も敷設されるーーと、冗談が冗談を呼ぶ。
企業や公的機関さえ、この遊びに参加し始めた。チェコ鉄道は「12月からカリーニングラード行きを運行する」と予告。パルドビツェ市の警察は「本日はカリーニングラードで速度違反を取り締まっている」と発表した。米国大使館までもが「チェコ政府に空母が必要どうか」を聞くツイートを投稿した。
さて、事の始めのツイートは、あるポーランド人ユーザーのものだった。「カリーニングラード州の領土をポーランドとチェコで分ければ、チェコも『内陸国』から脱却できる」という内容で、これをチェコのトマーシュ・ズデホフスキー欧州議会議員が翻訳してツイートしたのが爆発的な反応を招いた。
チェコやポーランドでは大受けしているが、ロシアでは大真面目に受け取る人もいるようだ。ロシアのネットポータル「politexpert.net」のインタビューでは「ミハイル・ティモシェンコ元大佐」と名乗る人物が、「ポーランドとチェコはカリーニングラード分割の望みを捨てるべきだ。ロシアは自国領を守り通す。ポーランドがロシアのバルト艦隊を挑発すれば、窮地に陥ることになる」と話した。ロシアがあまりに信じがたいことばかりをしているので、冗談だとわからなかったようだ。