セルビアでリチウム採掘計画に対する抗議活動が再燃している。停止していた同計
画の再開を政府が決定し、直後に欧州連合(EU)とリチウムの供給で合意したこと
で、環境への影響を懸念する反対派を中心に計画中止を求める声が高まっている。
政府は国益に直結する事業として推進する構えだが、抗議運動の展開によってはさ
らなる遅延もありうる。ウェブ誌『ユーロニュース』が7月31日に報じた。
セルビア西部ロズニツァ近郊のヤダル川流域で発見されたホウ酸リチウム鉱床は、
世界のリチウム埋蔵量の10%を占めると推定されている。同鉱床の開発計画を巡っ
ては2022年1月、英豪資源大手リオ・ティントによる開発免許が住民の反対を受け
て取り消されたが、セルビアの憲法裁判所は免許取り消しを違憲とする決定を7月
11日に下した。政府はこれを受け、重要資源の安定調達を図りたいEUと19日に「リ
チウムの持続可能な供給」に関する趣意書を締結。ドイツのショルツ首相もリチウ
ムのバリューチェーンに対する巨額の投資を表明していた。
セルビアの環境保護団体は、同計画がヤダル川の水系を汚染し、生態系に重大な損
害を与える可能性を指摘している。開発企業のリオ・ティントは国内の動向を注視
しているとしたうえで、計画を巡る世論は偽情報により惑わされていると主張。
「セルビア国民の抗議の権利は認めるが、環境への影響を懸念する向きには6月13
日に公表した影響評価の資料を読むよう勧める」と述べた。同社は、計画自体が22
年1月以前の状態まで後戻りしており、再開には様々な段階を踏む必要があること
から、採掘に漕ぎつくには数年かかる見通しを示している。
同計画を利権ビジネスとみなす反対派は国民にほとんど利益をもたらさないと主張
している。EU側はこれを強く否定し、すでに高いレベルにあるセルビアとEUとの経
済統合が深まるだけでなく、国内におけるバッテリーと電気自動車(EV)産業の振
興により2万人の潜在雇用が見込まれると強調した。