チェコの富豪、ダニエル・クレチンスキー氏が率いる投資会社EPグループによる英
ロイヤルメール買収が実現に近づいている。英BBCによると、同氏が追加条件を提
示したことがプラスに働いたもようだ。国家安全保障・投資法(NSI法)に基づく
認可が下りれば取引が成立する。
クレチンスキー氏は以前から、買収が実現した際に◇全国同一料金でユニバーサル
サービスを維持(月〜土曜日にファーストクラス[速達]の手紙を、月〜金曜日に
小包を配達)◇年金運用益の流用はしない◇ブランド名を今後5年間、変更しない
◇今後5年間は本社所在地と納税地を英国のままにする◇来年まで経営上の理由に
よる解雇を行わない——を約束していた。追加条件として、これらの約束の期限が
延長された可能性がある。
ロイヤルメールの親会社であるインターナショナル・ディストリビューションズ・
サービシズ(IDS)の取締役会は株主に対し、クレチンスキー氏の提示額36億ポン
ドの受け入れを勧告しており、取引に十分な株主の合意が得られると見込まれてい
る。
ロイヤルメールは10年までに郵便局から分社・民営化された。ここ数年は医薬品や
司法行政文書が期日通りに届かないなど、サービスの質が落ち、大幅な赤字経営に
なっている。IDCはこの赤字をドイツとカナダの事業の黒字でかろうじて相殺し、
わずかに連結利益を計上している状況だ。
ユニバーサルサービスについては現在、見直しが検討されている。ロイヤルメール
は監督機関である情報通信庁(Ofcom)に対し、セカンドクラス(普通郵便)の配
達を1日おき(日曜日を除く)に減らすことを提案。これにより、最大で年間3億ポ
ンドの費用が削減できるという。
やはりクレチンスキー氏が保有するエネルギー企業EPHは、ロシア産天然ガスを欧
州に輸送する、スロバキアの送ガス事業者ユーロストリームに49%出資している
(残り51%はスロバキア政府が出資)。これに加え、クレチンスキーは以前、国営
ガスプロムや他のロシア企業の経営首脳とつきあいがあったことや、EPHが炭素排
出量の多い「(中欧)地域で最も汚い」企業として知られることなどで批判を受け
てきた。以前、IDCへ追加投資した際に政府が取引を事前審査したにもかかわら
ず、今回も改めて審査手続きをとったのは、ロシアとの関係を明確にする目的だっ
たと考えられている。
クレチンスキー氏は中東欧のエネルギー業界への投資で財を成した。現在では他業
界にも対象を広げ、英国では小売りチェーンのセインズベリーズに10%、サッ
カー・プレミアリーグのウェストハム・ユナイテッドに27%出資する。