欧州連合(EU)の欧州委員会は2日、独BASFが開発した遺伝子組み換え(GM)ポテト「アムフローラ」の商業栽培を承認した。同社がEUに最初の栽培申請を出したのは13年前。GM作物に対する批判が環境保護団体や一部の加盟国で根強いため、認可手続きは何度も仕切り直しされていた。欧州委はこうした事情を踏まえ今回、栽培に厳しい条件を付けるとともに、最終的な許可権を加盟各国に委ねることで打開を図った格好だ。GM作物栽培に慎重な姿勢を示すドイツのイルゼ・アイクナー消費者保護相は欧州委の決定に歓迎を表明した。
\アムフローラは主に紙や糊の生産に使用するポテトスターチ(でんぷん)の原料用として開発され品種で、抗生物質「カナマイシン」「ネオマイシン」への耐性を持つ遺伝子が組み込まれている。このため環境保護団体などは同遺伝子をバクテリアが持つようになり耐性菌が生まれる恐れがあるなどと批判。GM作物への消費者の不安が強いこともあり、一部の加盟国も承認に反対の立場を取ってきた。
\一方、欧州食品安全庁(EFSA)はこれまでに何度も行ってきた科学調査で、人体や環境に悪影響を及ぼす危険性はないとの見解を示しており、「栽培認可のさらなる遅延を正当化することはできない」(ダッリ欧州委員=保健・消費者政策担当=)状況となっていた。
\BASFは欧州委の決定を受け、今春にも栽培を開始する意向だ。栽培を行うのは計3カ国の契約先の農家で、具体的には独メルレンブルク・フォーポマーン州で20ヘクタール、スウェーデンで80ヘクタール、チェコで150ヘクタールを予定している。地方紙『ラインファルツ』によると、商業栽培を行うのはチェコのみで、ドイツとスウェーデンでは播種用の種イモを栽培するという。
\アムフローラをポテトスターチの生産に用いると、従来のじゃがいもに比べ電力と水を節約でき、欧州全体では年1億~2億ユーロのコスト削減につながるという。同社はアムフローラのライセンス収入が最大で年3,000万ユーロに達すると予想している。
\BASFは4日、新たに開発したGMポテト2品種についてもEUに栽培許可を申請することを明らかにした。新品種は1つがアムフローラと同じスターチ製造用、もう1つは食用で、スターチ製造用(品種名は未定)は近く申請の予定。食用種(品種名「フォルトゥナ」)はフライドポテトやポテトチップスに向いており、菌類病に対する耐性を持つ。
\ \ドイツでは壁高し
\ \EUで遺伝子組み換え作物の栽培が承認されたのは米モンサントのGMトウモロコシ「MON 810」に次いでアムフローラが2件目。MON810の許可が下りてから12年目で、種苗メーカーは今回の決定が大きな突破口となることを期待している。足元のドイツでは昨年秋に成立したキリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟(CSU)、自由民主党(FDP)の3党からなる中道右派政権がアムフローラの商業栽培実現を政権協定に盛り込むなど、CDU/CSUと社会民主党(SPD)からなる前政権よりもGM作物栽培に前向きだ。
\だが、一歩踏み込んでアムフローラがドイツでどの程度栽培されるかと考えると、状況は依然として厳しい。GM作物・食品に対する消費者の拒否反応が強いためだ。今回の栽培許可に関するメディア報道をみると、全国紙では肯定的に取り上げる記事が一部見受けられるものの、市民生活に密着した地方紙では批判的な取り扱いが目立つ。独ジャガイモ流通業界団体DKHVも消費者と小売店はGM作物を使用した製品を受け入れないと指摘。現時点でアムフローラの需要はないとの見方を示した。
\与党内ではバイエルン州の地方政党であるCSUがGM作物の推進に消極的だ。支持基盤の農家が農作物の販売に響くと批判しているためで、同党のアイクナー消費者保護相は昨年4月、環境に悪影響を及ぼす恐れがあるとしてMON810の栽培を突然、禁止した。この措置は今年も継続している。
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