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2010/3/17

総合 - ドイツ経済ニュース

「ドイツは貿易黒字削減を」、仏財務相が要求

この記事の要約

ギリシャの財政危機に端を発するユーロの信認問題が思わぬ形でドイツに飛び火してきた。欧州連合(EU)をドイツとともにけん引するフランスのクリスティーヌ・ラガルド財務相が危機の責任の一端はドイツの貿易黒字にあるとして是正を要 […]

ギリシャの財政危機に端を発するユーロの信認問題が思わぬ形でドイツに飛び火してきた。欧州連合(EU)をドイツとともにけん引するフランスのクリスティーヌ・ラガルド財務相が危機の責任の一端はドイツの貿易黒字にあるとして是正を要求したのだ。輸出依存型のドイツ経済を仏閣僚が初めて公然と批判したこともあり、大きな議論を呼んでいる。背景にはユーロ圏の貿易黒字国と赤字国の亀裂のほか、経済思想の相違もある。

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ラガルド財務相は14日夜にネット公開された『ファイナンシャル・タイムズ(FT)』紙のインタビュー記事で、ドイツは被用者の可処分所得を大幅に増やして内需を拡大し貿易黒字を削減すべきだとの立場を表明した。輸出に依存したドイツの経済成長は貿易赤字を抱える他のユーロ加盟国の犠牲のうえに成り立っているとの認識で、ドイツの主要紙はこの問題を16日の紙面で大きく取り上げた。

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同相によると、ドイツは過去10年ほどの間に単位労働費用(生産一単位当たりに要する人件費=ULC=)を大幅に引き下げ、国際競争力を強化した。この結果、貿易黒字に基づく経済成長を成し遂げたが、その半面で他のユーロ加盟国の貿易赤字、ひいては財政赤字が拡大しているという。ドイツ型の経済成長はユーロ圏内の格差拡大をもたらし、ユーロの安定を長期的に損なうというのが同相の見方だ。

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ラガルド財務相が指摘するように、ドイツはシュレーダー前首相の時代から政府と企業、労組の3者が対立を含みながらも人件費の削減と生産性の向上に取り組んできた。その効果が明確に現れたのはシュレーダー政権末期の2005年で、世界銀行は同国を企業活動に関する改革が先進国の中で04年に最も進捗した国と高く評価した。英『エコノミスト』誌も「驚異のドイツ経済」とのタイトルで特集を組み、シュレーダー改革や労働コストの抑制を絶賛した。

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こうした事情はドイツの国際競争力にも反映された。仏投資銀行Natixisによると、ユーロ圏内の輸出取引に占めるドイツの割合は現在27.4%となり、1997年の25.1%から2ポイント以上、拡大している。

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「貿易赤字国は構造改革を」=独経済相

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貿易黒字国があれば、赤字国があるのも自明の理で、ユーロ圏ではギリシャ、ポルトガル、スペインなど財政が特に緊迫している国とともにフランスがこれに該当する。貿易赤字国は赤字の額だけ富が国外に流出して国内総生産(GDP)が押し下げられるため、経済成長上の足かせがかかった状態にある。

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このため貿易不均衡の是正はこれらの国にとって重要な課題となる。では、どのような形で是正を図れるのだろうか。

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仏ラガルド財務相が要求するように、貿易黒字国の側が内需拡大や輸出競争力の引き下げを通して実現するというのは1つの方法だ。これは企業(サプライサイド)の強化よりも個人消費(ディマンドサイド)の強化を重視する考え方と親和性が高く、ケインズ主義が強いフランスでは以前から主張されていた。

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ドイツ企業が国際競争力を落とせばユーロ加盟国間の経済競争力は平準化され貿易格差は確かに弱まる。だが、グローバル経済競争が厳しさを増すなかで仮にそのような政策を実施したとすれば、欧州経済そのものが競争力を喪失するのは明らかで、ドイツのシュテークマンス政府副報道官は、ユーロに加盟するすべての国が共通の成長戦略に全力を投入すべきだと指摘。競争力の高い国がその力を意図的に落とすのではなく、低い国と高い国がともに競争力を引き上げていくことが重要だと訴えた。また、ブリューデルレ独経済相は「これまで身の丈に合わない生活を送り競争力をおろそかにしてきた国が(状況が悪化した)今になって(競争力の高い)他の国を批判するのはアンフェアだ」と批判。これらの国が競争力を高めるには「痛みを伴う構造改革が避けられない」との見解を示した。

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EUは世界で最も競争力のある地域になるという目標を掲げている。これを実現するためには、域内企業の競争力を高める方向で改革を推し進める以外に手だてはないようにみえる。

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