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2010/4/21

ゲシェフトフューラーの豆知識

「東ドイツ人」は民族に当たらず=労裁

この記事の要約

民族的(エスニック)な出自を理由とした差別は欧州指令を受け2006年に施行された一般平等待遇法(AGG)で明確に禁止されている。求職者や社員を外国人あるいは外国系の市民だからといって不利に取り扱うことは違法行為に当たり、 […]

民族的(エスニック)な出自を理由とした差別は欧州指令を受け2006年に施行された一般平等待遇法(AGG)で明確に禁止されている。求職者や社員を外国人あるいは外国系の市民だからといって不利に取り扱うことは違法行為に当たり、損害賠償を請求されるのである。

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しかし、一歩踏み込んで「民族的な出自とは何か」と考えてみると、実は簡単な問題ではない。「ドイツ人とフランス人、ポーランド人は明らかに違い、少しも難しくないではないか」と反論される方もおられるかもしれないが、例えばベルギーに住むフランス語系の住民のなかには自分をフランス人と考える人が多い。国籍はベルギー人だが文化的にはフランス人だと自負しているのである。国境と民族の分布が一致していない欧州ではこうしたことは珍しくない。

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では本人が「何々人」と思っていればその通りかと言うと、これも微妙な問題を含む。少なくとも法律が絡んでくると、客観的な指標・基準が必要になるからだ。シュツットガルト労働裁判所は民族差別を受けたとする求職者が起こした係争で15日に判決を下した際、まずは民族の定義を明確に示した。

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原告は旧東ドイツ(DDR)出身の49歳の女性ガブリエラSさん。バーデン・ヴュルテンベルク州にある住宅工事会社EMOが2009年夏に行った会計担当者の求人に応募したところ、能力不足を理由に不採用とされた。その際、会社から送り返された履歴書に東ドイツ市民の蔑称として使われることのある「オッシー(Ossi)」という文字がマイナス符号とともに手書きで書かれていたため、民族的な出自を理由とする差別に当たるとして提訴。賠償金4,800ユーロの支払いを要求した。

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これに対し被告企業のEMOは「専門能力が高くやる気のある人材であれば東ドイツ出身の社員を以前から積極的に雇っている」として、差別はないと反論している。

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シュツットガルト労裁の判決では原告の主張が退けられた。判決理由で裁判官は東ドイツの市民は伝統、言語、宗教、衣服、食生活の面で西ドイツの市民とほとんど違いがないと指摘。「オッシーという言葉は差別的な意味合いで使われる、あるいはそのように受け止められることもあるが、AGGに記された『民族』には当たらない」との判断を示した。「東ドイツ人」という民族は存在しないと結論付けたわけである。

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原告サイドは判決を不服として控訴を検討している。

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