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2010/5/5

経済産業情報

排出権取引で脱税、全国230カ所に立ち入り捜査

この記事の要約

二酸化炭素(CO2)排出権取引にからみ付加価値税(VAT)の脱税が行われている事件で、独捜査当局は4月28日、全国各地で一斉に立ち入り調査を実施した。捜査の対象は計約230カ所で、フランクフルトにあるドイツ銀行の本社や排 […]

二酸化炭素(CO2)排出権取引にからみ付加価値税(VAT)の脱税が行われている事件で、独捜査当局は4月28日、全国各地で一斉に立ち入り調査を実施した。捜査の対象は計約230カ所で、フランクフルトにあるドイツ銀行の本社や排出権取引所を運営するミュンヘン取引所も含まれる。捜査官の動員数は1,000人を超えた。

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脱税の手口は(1)ドイツにある幽霊会社Aが他の欧州連合(EU)加盟国の業者から排出権を非課税で買い取る(非課税となるのはEU域内で国境を越えて販売される排出権にはVATがかからない決まりがあるため)(2)A社は買い取った排出権を19%の付加価値税込みでドイツ国内にある共犯のB社に売却する(3)その際、A社は納税義務があるにもかかわらず付加価値税を納めず、企業の関係者も姿をくらます(4)B社は国内の別の取引業者に排出権を売却するとともに、A社との取引額に含まれていた付加価値税の還付を税務署に申告する――というもの。捜査当局はこうした手口を用いた犯罪に企業およそ50社と約150人が関与していたとみて捜査を進めている。被害総額は少なくとも1億8,000万ユーロに上るもようだ。

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ドイツ銀行が立ち入り調査を受けたのは容疑者の多くが口座を持っていたためだ。同行の広報担当者は従業員7人がこうした犯罪を知りながらほう助していた可能性があるとして、捜査に全面協力する意向を表明した。ミュンヘン取引所は運営する排出権取引所「グリーンマーケット」から犯罪に関与した疑いのある業者2人を排除したという。

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ドイツでは2009年春ごろから、排出権を大量に取引する事業者が急増。多くは英国のパスポートと携帯電話を持つパキスタン系の業者で、市場価格をやや下回る水準で排出権を販売していた。

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こうした事業者と接触を持ったノルウェーの電力大手スタットクラフトの関係者はマスコミに対し、これら企業の事務所はレンタルオフィスで、室内にノートパソコンしかない簡素なものだったと指摘。そのうえで、この種の怪しい事業者に排出権取引の資格を付与していたミュンヘン取引所のわきの甘さを批判した。

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欧州刑事警察機構(ユーロポール)の推定によると、排出権にからむ詐欺の欧州全体の被害額は08年半ば~09年末の1年半で50億ユーロを超えた。排出権取引の90%が犯罪に関係している国もあるという。こうした事業を受け、英国とフランスは昨年、排出権の付加価値税率を0%に引き下げている。

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