1つの経営体(企業)には1つの労使協定のみが適用されるとする「単一労使協定(Tarifeinheit)」原則の是非をめぐる係争で、雇用問題の最高裁である連邦労働裁判所(BAG)第10法廷は23日、同原則は「結社の自由」を認めた基本法(憲法)9条1項の規定に反するとの判断を示した。単一労使協定の原則は戦後ドイツの安定的な労使関係の要とされてきたルールで、これにより小規模労組の乱立とストライキの多発が抑止されてきたとされる。このため雇用者団体と大労組は今回の司法判断に危機感を持っており、政府に対し同原則を法制化するよう要請した。
\裁判を起こしたのは勤務医労組マールブルガー・ブントに加入する公立病院の医師。裁判では被用者全体を対象とした労使協定が被用者内の特定の職種を対象とした労使協定に優先するとした単一協定原則の是非が争われた。
\連邦労裁のプレスリリースによると、被告病院が加盟する自治体雇用者団体連合会(VKA)は2005年9月末まで、サービス業界の大労組であるVerdi、およびマールブルガー・ブントと同一の労使協定(BAT)を結んでいたが、VKAとVerdiの2者は同年10月付で新協定に移行。新協定は被用者全体を対象とした労使協定の優先ルールに従いマールブルガー・ブントにも適用された。原告の医師はこれを不服として旧協定(BAT)に基づいた休暇手当の支給を要求、裁判を起こした。
\BAGでは裁判を担当する第4法廷が今年1月、単一協定原則を違憲とする判断を提示した。その際、労使協定に関する係争の審査権が第10法廷にもあることを踏まえ、第10法廷に判断を示すよう要請していた。第4法廷は今回の第10法廷判断を受け、7月7日に違憲判決を下す見通しだ。
\独雇用者団体連合会(BDA)のディーター・フント会長はBAG判断を受け、「英国では1970年代に様々な労組によるストライキが恒常化し単一労使協定が大きく損なわれた結果、産業が空洞化した」と発言。同様の事態を回避するため政府は法改正すべきだと訴えた。
\労組の頂点団体である独労働組合連合会(DGB)は既存労組から独立する形で職種別の労組が乱立し、自らの影響力が弱まることを懸念している。これまでは単一協定原則が抑止効果を発揮し、職種別の労組がマールブルガー・ブントやVC(パイロット労組)、GDL(機関士労組)などごく少数にととまっていた。
\政府はこれまでのところ公式見解を表明していない。ただ、所轄大臣のフォンデアライエン労相は財界関係者との会談で、単一協定原則を法制化する考えを明らかにした。憲法改正が必要となる可能性が高いため、まずは法相、内相と協議する意向だ。BDAとDGBによると、メルケル首相も同原則の法制化に理解を示しているという。
\ \07~08年DBストは悪夢の先例
\ \単一協定が崩れると企業に大きな痛手となることは、GLDが07~08年にかけてドイツ鉄道(DB)を対象に実施した労働争議で明らかになった。
\DBには労組が3つあり、3労組は長年、労使協定で共同歩調をとってきた。だが、07年の労使交渉でGDLは「機関士の勤務内容が高度化し仕事の量も増えているにもかかわらず、給与(支給額ベース)は月1,970~2,142ユーロにとどまっている」として、大労組のトランスネットとGDBAに労使交渉の主導権を委ねる従来の路線を破棄。GDL独自の労使協定と31%の大幅ベアを求めて半年間の長期ストライキを実施した。
\これに対し経営陣は当初、単一協定原則を根拠にGDLに要求をはねつけていたものの、GDLが態度を軟化させず、経済への影響も無視できなくなったため、最終的にベア11%の受け入れを余儀なくされた。
\だが、問題はこれにとどまらなかった。ベア4.5%で労使協定をすでに締結していたトランスネット、GDBAがGDLの協定に匹敵するベアを要求したのである。トランスネットとGDBAの組合員のなかには機関士も含まれており、GDLに所属する機関士の賃金だけを大幅に引き上げるのは不平等なためだ。経営陣も社員間に待遇面で差別があってはならないとの立場を取っており、結局は全社員の賃金を大きく引き上げた。
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