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2011/8/3

総合 - ドイツ経済ニュース

電力大手4社が事業の抜本見直しへ

この記事の要約

ドイツが原発廃止の前倒しに踏み切ったことを受け、同国の電力大手4社が事業の抜本的な見直しを余儀なくされている。これまで前提にしてきた原子力発電の利用がすでに大幅に縮小されているうえ、廃炉などのコストも財務を圧迫するためだ […]

ドイツが原発廃止の前倒しに踏み切ったことを受け、同国の電力大手4社が事業の抜本的な見直しを余儀なくされている。これまで前提にしてきた原子力発電の利用がすでに大幅に縮小されているうえ、廃炉などのコストも財務を圧迫するためだ。各社は競争力を維持するためにコスト削減や資産売却、増資などあらゆる手段を活用する考えで、最大手エーオンのヨハネス・タイセン社長は雑誌インタビューで「困難な状況下では、晴天時には正当化できないような決定を貫徹することもありうる」と発言。解雇を含む厳しい措置を検討していることを示唆した。

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ドイツにある17原発のうち8基は緊急待機用の1基を除き再稼働されないことが決まった。残る9基も従来計画よりも約20年早い2022年末までにすべて廃炉となる。州立銀行LBBWの試算によると、これに伴い電力大手4社が被る損失は計220億ユーロに上る。

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その影響はすでに決算報告に鮮明に表れている。独電力市場で4位につけるスウェーデン系のバッテンフォールは2011年4-6月期の営業損益(EBIT)が32億クローナの赤字となり、前年同期の黒字(89億クローナ)から大幅に悪化した。ドイツの原発廃止に伴い同国に保有する原発2基の減損処理を行ったほか、解体と燃料棒の処理費用を引き当てたことで、EBITが102億クローナ(約11億2,000万ユーロ)も押し下げられたことが響いた。

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独3位のEnBWも2011年6月中間期の最終損益が前年同期の黒字(約9億ユーロ)から5億9,000万ユーロの赤字へと転落した。保有する原発4基のうち福島原発事故直後から停止している2基が再稼働されないことが決定したため、11億ユーロの特損が発生した。

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エーオンと独2位RWEの4-6月期決算はまだ公開されていないが、大幅な減益ないし赤字転落は避けられない見通しだ。

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業界就業者の1割が整理も

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財務の悪化を受け、各社は経営改善の検討を開始した。これまでの良好な格付けを維持し資金調達コストの上昇を抑えるほか、今後の事業展開に必要な資金を確保することが狙いだ。

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増資はRWEとEnBWが検討している。このうちEnBWについては計93.1%を出資するバーデン・ヴュルテンベルク州と同州の自治体系投資会社OEW Energie-Beteiligungs GmbHが財政難を理由に出資額の引き上げに難色を示している。また、同社の提携交渉先と観測されているロシアの民間天然ガス大手Novatekを株主として招き入れることは、ドイツの政治サイドが了承しない可能性がある。幅広い投資家向けに株式を新規発行することも選択肢の1つになりうるが、発電量の51%を原発に頼ってきた同社が投資家にとって魅力ある企業に生まれ変わるのは容易でなく、市場資金調達の道は険しい。

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資産売却はRWEとEnBWが検討していることが分かっている。RWEは総額80億ユーロの資産を放出する計画で、すでに独送電網子会社AmprionについてはCommerz Real(コメルツ銀行子会社)を中心とするコンソーシアムに売却することが決まった。メディア報道によると、英子会社npowerや独地域エネルギー販売子会社の売却も視野に入れているもようだ。

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コスト削減は組織再編や人員整理、他社との提携を通して実現することが各社で検討されている。エーオンは天然ガス子会社Eon Ruhrgasをはじめとする独国内の中間持ち株会社3社を解体し、デュッセルドルフのグループ本社に統合するもよう。中間持株会社3社の従業員数は計1,700人強で、『シュピーゲル』誌によると、数百人が整理されるという。EnBWも「人員削減はタブーでない」としている。一方、RWEは西欧の天然ガス・石炭発電事業を露ガスプロムと共同展開し、投資資金を圧縮する考えだ。

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『南ドイツ新聞』は原発廃止に伴い独電力業界で就労者の1割に当たる2万人が整理されると報じている。

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