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2011/10/12

総合 - ドイツ経済ニュース

「トロイの木馬」を捜査当局が違法利用か

この記事の要約

コンピューターからひそかに情報を収集するトロイの木馬(スパイウエア)をドイツの捜査当局が利用していることが大きな問題となっている。法律で定められた権限を大幅に逸脱し、人権を侵害している可能性があるためで、ハイテク業界団体 […]

コンピューターからひそかに情報を収集するトロイの木馬(スパイウエア)をドイツの捜査当局が利用していることが大きな問題となっている。法律で定められた権限を大幅に逸脱し、人権を侵害している可能性があるためで、ハイテク業界団体のBitkomはインターネットなどに対する市民や企業の信頼を打ち壊す恐れがあると懸念を表明。事態を重く見たメルケル政権は調査に乗り出した。

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トロイの木馬問題はハッカー系の非政府組織(NGO)「カオス・コンピューター・クラブ(CCC)」が8日付のプレスリリースで明らかにした。それによると、当局は捜査対象の市民のコンピューターをトロイの木馬に感染させ、情報を入手している。

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CCCが入手した同スパイウエアを分析したところ、インターネット電話の盗聴のほか、◇電子メールの転送◇ハードディスク内のデータの転送や改ざん◇新たなプログラムのダウンロード◇コンピューターのある部屋の監視・盗聴◇画面のスクリーンショット――などの機能を持つことが分かった。

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こうした捜査が認められるのは治安を根幹から揺るがすテロなどの恐れが実際にある場合に限られる。通常の犯罪捜査ではインターネット電話の盗聴などは認められるものの、ハードディスク内のデータ入手などは禁じられている。

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CCCの告発を受け、バイエルン州内務省は10日、問題となっているスパイウエアを州警察が2009年の捜査で利用した可能性があるとの声明を発表した。違法な利用は行っていないと強調している。

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11日にはニーダーザクセン州とバーデン・ヴュルテンベルク州の内務省もトロイの木馬を使っていることを明らかにした。ただ、ニーダーザクセン州は通信データの入手に用途を制限し、違法性の疑いがある画面のスクリーニングは控えていると強調。また、バーデン・ヴュルテンベルク州は利用しているスパイウエアがバイエルン州のものと同じ可能性があるとして、捜査への投入を凍結する意向を表明した。

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一方、連邦(国)の機関ではCCCが指摘したスパイウエアが使われていないもようだ。連邦内務省は9日、連邦憲法擁護庁(BfV)や連邦警察庁(BKA)など傘下の捜査機関で問題のスパイウエアを利用していないことを明らかにした。

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ただ、連邦の機関が同スパウエアを利用した捜査に間接的にかかわった可能性は排除できないもようだ。スパイウエアを使ったバイエルン州警察の捜査をめぐって裁判で争っている被疑者の弁護士は10日、被疑者のパソコンにスパイウエアがインストールされたのは、ミュンヘン空港の税関においてだと指摘。連邦の機関である税関は州警察の捜査に協力していたとの見方を示した。このパソコンはCCCに送付されており、CCCはここから問題のスパイウエアを検出した可能性が高い。

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独IT企業がソフト開発

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このスパイウエアはヘッセン州ハイガーにあるIT企業Digitaskが作成したもようだ。同社は国内外の治安当局や企業などの顧客向けに特注ソフトを開発している。『フランクフルター・アルゲマイネ』紙によると、内部告発サイト「ウィキリークス」は08年、同社とバイエルン州法務省が交わした文書をインターネットで公表したという。

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連邦政府内ではインターネットを使った捜査をどこまで認めるかをめぐって議論が分かれている。人権擁護と捜査の実効性がせめぎ合っている格好で、リベラル派のロイトホイザーシュナレンベルガー法相は今回の問題を受け、プライバシーに踏み込んだ捜査の制限を主張。これに対し治安重視派の議員は、法相が捜査当局の権限明確化を阻止しているため捜査担当者はグレーゾーンで仕事をせざるを得ないと批判している。通常の捜査で画面のスクリーニングやキーロガー(キーボードの入力履歴を監視するスパイウエア)の投入が許されるかどうかは法解釈が確定していないという事情が背景にある。

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