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2012/1/18

総合 - ドイツ経済ニュース

「ユーロ債務危機はドイツの責任」に反論、ULCは高水準

この記事の要約

ドイツ経済の好調は他のユーロ加盟国の犠牲の上に成り立っているとする見方への学術的な反論が登場した。有力研究機関IWドイツ経済研究所のミヒャエル・ヒューター教授は16日のプレス発表で統計データの分析結果を提示。ドイツの人件 […]

ドイツ経済の好調は他のユーロ加盟国の犠牲の上に成り立っているとする見方への学術的な反論が登場した。有力研究機関IWドイツ経済研究所のミヒャエル・ヒューター教授は16日のプレス発表で統計データの分析結果を提示。ドイツの人件費は依然として高く、賃金を不当に抑えて輸出を増やしユーロ諸国の経常赤字を膨らませた事実はないとの見解を示した。また、ドイツ経済が安定していることはユーロ経済の悪化に一定程度の歯止めをかけているとも主張している。

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ドイツ経済のあり方に対しては2010年、フランスのラガルド財務相(当時。現在は国際通貨基金=IMF=専務理事)が批判を行い、IMFのストロスカーン専務理事(当時)や労組系のドイツのエコノミストが同調した。

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それによると、ドイツは過去10年ほどの間にユニット・レーバー・コスト(生産一単位当たりに要する人件費=ULC=)*を大幅に引き下げ、国際競争力を強化。この結果、貿易黒字に主導される形で経済成長を成し遂げたが、その半面で他のユーロ加盟国の貿易赤字、ひいては財政赤字が拡大していると指摘した。また、ドイツの賃金上昇率が低く個人消費と輸入が伸びないことも、他のユーロ加盟国の貿易収支悪化につながったとしている。

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これに対しIWのヒューター教授は、独製造業のULCはユーロが導入された1999年から2010年までの間に0.5%しか低下していないことを指摘。ドイツ経済は生産性の伸びに見合う形で賃金を引き上げてこなかったとする見方を明確に否定した。また、世界市場でドイツと競合する日本と米国はそれぞれ約30%、11%も下がっている事実を示し、ドイツのULCは世界的にみると改善度が小さいことも明らかにした。

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同教授の調べによると、ドイツを除くユーロ圏のULCはこの間に11.9%上昇した。人件費は生産性の伸びを上回るスピードで拡大した格好だ。

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深刻な財政危機に直面するギリシャのULCをみると、1999年から金融・経済危機発生の前年に当たる07年までの9年間に40%以上、上昇。イタリアとスペインの上げ幅もともに20%に達した。ドイツが人件費を不当に引き下げたのではなく、これらの国が身の丈を超えた安易な賃上げを続けた結果、産業競争力が低下し、経常赤字と財政赤字が拡大したことがうかがわれる。

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ヒューター教授はドイツの輸入が少ないとする批判に対しては、輸入が輸出同様に過去最高記録の更新を続けている事実を挙げて反論。ドイツの輸入が仮に減少しユーロ経済のけん引役を担えなくなれば、他のユーロ加盟国は輸出が減少し経済がさらに悪化するとしている。

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同教授は世界28カ国のULCも比較した。それによると、ドイツは英国、フランス、イタリア、デンマークに次いで上から5番目に位置しており、高いグループに属する(グラフ参照)。米国と日本はドイツをそれぞれ24%、27%も下回っており、ドイツの人件費は国際競争上の大きな足かせ要因となっている。それにも関わらず国際競争力が高いのは製品品質の高さと顧客重視の経営姿勢があるため、というのが同教授の見方だ。

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* ユニット・レーバー・コスト(ULC)

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一定量の商品を作るのに必要な人件費。人件費の伸び率が生産性の伸び率を上回ると上昇し、企業経営や経済のマイナス要因となる。

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