雇用主は退職者に支給する企業年金の引き上げを物価動向を踏まえて3年に1度、検討しなければならない。これは企業年金法(BetrAVG)16条1項で定められたルールである。雇用主はその際、受給者の利害と自社の経済的な状況をはかりにかけたうえで、公正な裁量に基づいて(nach billigem Ermessen)決定を下さなければならない。
一方、受給者が企業年金の支給額が少ないとして異議を唱える場合は、雇用主の決定から3年以内に雇用主に文書で伝えなければならない。これは最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が過去の判決で示した判断である。
では、年金支給額を不服として受給者が3年以内に提訴したものの、雇用主への訴状の送達が3年を過ぎていた場合、受給者の請求権は失われるのだろうか。この問題についてBAGが10月21日の判決(訴訟番号:3 AZR 690/12)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は企業年金の受給者がかつての勤務先を相手取って起こしたもの。原告は1993年から同社の企業年金を受給していた。
被告は2008年7月1日付の企業年金引き上げの際、原告への支給額を月1,452.83ユーロとした。原告は支給額が不当に少ないとして、それから3年弱が過ぎた11年6月末に訴状を裁判所に提出。不足額の支払いを求める訴訟を起こした。
被告企業に訴状が送達されたのは7月6日で、異議申立期間である3年をすでに過ぎていた。
下級審のベルリン・ブランデンブルク州労働裁判所は、文書の送達日をもって有効期限が定められている場合は期限内に裁判が起こされていれば、文書が期限後に請求先に送達されても請求権は失われないとした民事訴訟法(ZPO)167条の規定を根拠に原告勝訴を言い渡した。
一方、最高裁のBAGは同判決を破棄した。判決理由で裁判官は、被告企業はBetrAVG16条1項の規定に基づき08年の決定の3年後に当たる11年7月1日までに、企業年金の新規の支給額を決定しなければならなかったことを指摘。新規支給額を適切に決定するためには、企業の財務に影響を及ぼす要因となる前回の決定額に対する異議、および異議の件数を事前に知っていなければならず、異議はそれまでに被告に送達されていなければならなかったとの判断を示した。このため、ZPO167条の規定は適用されないとしている。