ドイツ鉄道(DB)を対象とする鉄道機関士労組GDLのストライキが長期化している。交渉の原理原則をめぐって両者の立場が平行線をたどっているためで、従業員の待遇をめぐる交渉に入れない状況だ。GDLは数日間に渡る全面ストをすでに2度実施しており、ストに対する通勤・旅行客の理解度は低下。実体経済に影響するとの懸念も強まっており、政府は問題の抜本的な解決に向けた法案の作成に乗り出した。
DBの労使協定は6月末で失効。GDLはこれを受けて次期協定交渉に向けた要求を経営側に提示した。
従業員の待遇については◇ベースアップ5%◇週労働時間をこれまでの39時間から37時間に削減◇残業時間の削減――といったことを要求している。これは労組の要求としては一般的なもので、交渉のネックにはならない。
障害となっているのはGDLが、これまで機関士に限られていた交渉対象とする従業員の範囲を乗務員全体に拡大するよう要求していることだ。機関士以外の乗務員(主に客室乗務員と食堂車スタッフ)の労使協定締結権はこれまで、競合労組である鉄道・交通労働組合(EVG)が全面的に掌握してきたが、GDLはこれを部分的に奪い取ることを目指している。
GDLは前身組織を含めると約150年の歴史を持つ老舗労組。DBの機関士の80%以上が加入するほか、現在は客室乗務員も30%が組合員となっている。
第2次世界大戦後は公務員のストを禁じる法律によりストを実施できなかったが、1994年のDB民営化により機関士の大半が公務員身分を喪失したため、再びストを実行できるようになった。
2002年まではDBとの交渉を他の2労組(トランスネットとGDBA。両組合は10年に合併しEVGとなった)と共同で進めてきたが、機関士の利害が軽視されているとして同共同交渉体から離脱。07~08年にかけてはGDL独自の労使協定と31%の大幅ベアを求めて半年間の長期ストライキを実施し、GDLに属する機関士のベアで11%を獲得した。DBはこのとき、従業員間の待遇に差別があってはならないとの立場から、GDL以外の従業員についても11%の賃上げを行った。
経営陣は複数協定の並立を拒否
GDLはもともと機関士だけが加入する組合だった。だが02年以降、客室乗務員が大量に加入。現在は3,000人以上の客室乗務員を抱えている。
GDLはこれを受けて、機関士だけでなく、GDLに属する乗務員全体を対象とする労使協定の締結をDBに要求している。
これに対し経営陣は、同一の仕事をしていながら所属する組合により従業員の待遇が異なることは認められないとの立場を堅持。GDLと労使交渉はするが、EVGとの間で行う交渉と同一内容にならない場合は、各職業グループで過半数の従業員を持つ組合との協定を他の組合の従業員(および組合に加入しない従業員)にも適用するとしている。機関士ではその80%強がGDLに所属するため、GDLとの協定を全体に適用するものの、客室乗務員では過半数がEVGに属するため、EVGとの協定を全体に適用するとの立場だ。GDLに属する客室乗務員にEVGとDBが締結した協定が適用されることになり、GDLが交渉の前提条件とする要求と相容れない。
DBの姿勢は、戦後ドイツの安定的な労使関係の要となってきた「単一労使協定(Tarifeinheit)」の原則に基づく。これは1つの経営体(企業)ないし経営体内の各職業グループには1つの労使協定のみが適用されるとするルールで、小規模労組の乱立とストの多発が抑止される効果がある。
だが、単一労使協定原則に対しては最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が10年に、「結社の自由」を認める基本法(憲法)9条1項の規定に反するとの判決を下した。同一企業の同一職業グループ内に複数の労使協定が併存することを合憲とする判断で、GDLはこの判決に基づいて、GDL加入の乗務員を対象とした労使協定の締結を経営陣に迫っている。
現在の法律環境ではGDLの主張に分がある。ただ、政府はGDLなど一部の小規模労組が「結社の自由」を濫用していると判断。現在、単一労使協定原則を憲法に抵触しない形で実現するために、法案の作成を進めている。これに対しては違憲立法審査のハードルを越えられないとの指摘がある。
経営陣は11日、GDLとEVGに対し、21日の同時間にそれぞれと並行して労使交渉を行うことを提案した。GDLとEVGの要求をうまく調整して、最終的にそれぞれと同一内容の協定を結ぶ考えとみられる。
GDLは経営陣の同提案を検討するとしている。同労組は最近、強硬姿勢をやや軟化させており、経営陣と交渉を開始し協定が成立する可能性もある。ただ、両者の溝は依然として深く、予断を許さない状況だ。