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2014/11/19

総合 - ドイツ経済ニュース

「景気低迷の責任の一端は政府に」、5賢人委が福祉拡充政策を批判

この記事の要約

政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は12日、2014年版『経済鑑定書』をメルケル首相に提出した。今回は現政権が約1年前の発足から重点的に進めてきた福祉拡充政策を強く批判。ドイツの将来を見据えると、そうした政策を長 […]

政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は12日、2014年版『経済鑑定書』をメルケル首相に提出した。今回は現政権が約1年前の発足から重点的に進めてきた福祉拡充政策を強く批判。ドイツの将来を見据えると、そうした政策を長期的に維持することはできないうえ、現在の景気低迷も責任の一端は政府のそうした政策にあるとの判断を示した。(同委の経済予測については下の表を参照)

中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と中道左派の社会民主党(SPD)からなる第3次メルケル政権は発足直後から福祉拡充に向けた政策を推し進めてきた。2000年代前半に始まった構造改革でドイツの経済力は復活したものの、その弊害も目立ってきたためで、公正な富の分配という観点からは正当な措置とみなされる。

政府は具体的には◇公的年金の保険料納付期間が45年以上の被保険者について、支給額の減額なしに年金を受給できる年齢を65歳から63歳に引き下げる(63歳年金)◇全国・全業界一律の最低賃金(8.5ユーロ)を来年1月から導入する――といった法案を7月までに成立させた。年金法案はすでに施行されている。

5賢人委員会はこれに対し、ドイツは少子高齢化の進展を背景に2020年代から低成長の時代に入ると指摘。分配重視の政策は長期的に維持できなくなるとして、効率重視にかじを切り直し最低賃金や63歳年金を抜本的に見直すよう政府に求めた。将来の景気的・構造的な危機を乗り切るためには経済が堅調な今のうちに危機に対応できる体制を構築しておくべきだというのが同委の基本的な立場で、生涯労働時間については延長が必要だとしている。

5賢人委は第1四半期に前期比0.7%増(14日の統計局発表で0.8%増に上方修正)と好調だったドイツの国内総生産(GDP)が第2四半期以降、大きく悪化していることについても、地政学リスク、ユーロ圏経済低迷のほか、政府の福祉拡充政策が影響していると指摘した。

同委の指摘に政府与党は機嫌を損ねたようで、SPDのファヒミ幹事長は、今年の『経済鑑定書』は学術水準に達していないと批判。メルケル首相も、まだ施行されていない最低賃金が現時点ですでに景気を押し下げているという主張は理解できないと述べた。

これについてエコノミストの間からは、政治家は経済音痴だとの声出ている。Ifo経済研究所の研究員は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、経営者は市場の先行きを予想したうえで行動すると指摘。最低賃金はまだ導入されていないものの、企業は近い将来の人件費上昇を受けて◇販売が落ち込む恐れがあるものの値上げする◇利益が減少するものの値上げを見合わせる◇人員削減に踏み切る――という選択肢の前に立たされているため、投資を抑制したり、新規採用を取り止めると因果関係を説明した。