格付け大手のフィッチは12日、経営危機に陥り国有化された墺ヒポ・アルペ・アドリア銀行の受け皿機関ヘタ・アセット・レゾリューションで債務削減(ヘアカット)が行われた場合、ドイツの銀行が被る損失総額はオーストリアの銀行を上回るとの見通しを明らかにした。ヘタへの債権の40%を独銀が保有し、かつヘアカット率を50%と仮定すると、ドイツの銀行業界の純利益は今年10%押し下げられるという。
オーストリア金融市場監督庁(FMA)は1日ヘタに対し、来年5月末まで債務返済を凍結するよう命じた。返済が凍結された債務の規模は98億ユーロ。その40%を独銀が保有しているとすると、債権額は39億ユーロとなる。
ヘタが経営破たんすると、政府保証の枠内でオーストリア政府は1億ユーロ、南部ケルンテン州は100億ユーロを補てんする義務を負う。ただ、ケルンテン州の年間予算は22億ユーロに過ぎないことから、補てん能力は実質的にない。
オーストリア政府はこれまでヒポ・アルペ銀(ヘタ)の救済に総額56億ユーロを支出してきたが、新たな資金注入は行わない方針だ。このため、債務削減が避けられない状況となっている。
ヘタに対する債権額が最も大きいドイツの銀行は、ヒポ・アルペ銀の元親会社バイエルン州立銀行で、24億ユーロに上る。これにドイチェ・プファンドブリーフバンク(PBB)とデクシア・コミュナルバンク・ドイチュラントがそれぞれ3億9,500万ユーロで続く。フィッチによると、50%のヘアカットが行われた場合、PBBの今年の税引き前利益は70%目減り。デクシア・コミュナルバンクでは利益がすべて吹き飛ぶ見通しという。
ヒポ・アルペ銀はもともとケルンテンの州立銀行だったが、同州の首相となった極右政治家のハイダー氏が事業拡大を推進。南東欧など国外11カ国に進出した。
バイエルン州立銀はヒポ・アルペ銀を2007年に買収したものの、同子会社は買収前から行われていた放漫経営が響いて08年の金融危機を機に財務が悪化。バイエルン州立銀は09年、ヒポ・アルペ銀をオーストリア政府に売却した。同政府は14年、ヒポ・アルペ銀を清算し、資産をヘタに移管した。