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2015/6/10

総合 - ドイツ経済ニュース

ドイツ銀の共同CEOが共に辞任

この記事の要約

独最大手銀行のドイツ銀行は7日、共同最高経営責任者(CEO)であるアンシュー・ジェイン、ユルゲン・フィッチェンの両氏が共に辞任すると発表した。同行は違法行為に伴う巨額制裁金を科されて収益力が低下し株価が低迷。株主の不満が […]

独最大手銀行のドイツ銀行は7日、共同最高経営責任者(CEO)であるアンシュー・ジェイン、ユルゲン・フィッチェンの両氏が共に辞任すると発表した。同行は違法行為に伴う巨額制裁金を科されて収益力が低下し株価が低迷。株主の不満が極めて高まっていることから、トップの刷新が避けられなくなった格好だ。後任には英国人のジョン・クライアン監査役(54)が就任する。コンプライアンス体制の強化と財務基盤の強化が課題となる。

ジェインCEOは今月末で辞任、クライアン監査役が後を継ぐ。フィッチェンCEOはドイツの政財界に幅広い人脈を持つことから、当面は現職にとどまってクライアン氏をサポート。来年5月19日の株主総会で辞任する。

ジェイン氏とフィッチェン氏は2012年5月、アッカーマン前CEOの後任として共同CEOに就任した。ジェイン氏は利益の大半を稼ぎ出す投資銀行部門を統括していたため、CEO就任以前からアッカーマン氏の後継候補と目されていた。ただ、インド人でドイツの政財界に人脈を持たないうえ、投資銀行畑の経験しかないことから、フィッチェン氏がサポート役の形で共同CEOに就いた経緯がある。

就任の4カ月後に打ち出した経営戦略「シュトラテギー2015+」では、増資をせずにコスト削減を通して15年末までに税引き後ベースの自己資本利益率(ROE)で12%以上を確保するなどの目標を設定した。

だが、当局の規制強化および、不正行為や訴訟にからむ引当金の大幅積み増しを受けて、13年と14年に計108億ユーロの巨額増資を実施。1株当たりの利益が希薄化し、株主の不興を買った。

また、大幅なコスト削減にもかかわらず、利益率は低迷。15年1-3月期(第1四半期)のROEは3.1%と目標の4分の1の水準にとどまった。ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)など国際的な指標金利の不正操作に関与し巨額の制裁金を科されたほか、金融規制の強化でコストが膨らんでいるためで、4月に打ち出した新しい経営戦略「シュトラテギー2020」ではROE目標の10%への引き下げを余儀なくされた。

違法行為に伴ってドイツ銀がこの3年間に支払った制裁金などの総額は約90億ユーロに達する。現在もおよそ6,000件の訴訟を抱えるなど、問題は山積みで、株主の不満は5月21日の株主総会で爆発した。両CEOを信任する株主が約61%にとどまったのである。通常は90%を超えることを踏まえると異例の低さで、実質的には「不信任」の評価を受けた格好だ。ジェインCEOに対してはドイツの従業員代表からも辞任要求が出ていた。

両CEO辞任を受け、ドイツ銀の8日の株価は一時8%上昇した。時価総額が約30億ユーロも高まった計算だ。

次期CEOは実質的に外部の人材

次期CEOのクライアン氏は08年から11年にかけてスイスの大手銀UBSの最高財務責任者(CFO)を務め、その後は昨年までシンガポール国営投資ファンド、テマセクの欧州事業を統括してきた。ドイツ銀の監査役には13年に就任。監査委員会の会長とリスク委員を務めてきた。CEO就任に伴い監査役を退任する。ジェインCEOと違ってドイツ語が得意なことはプラス材料となる。

クライアン氏はドイツ銀で実務を行ったことがなく実質的に外部の人材であることから、同行が過去に行った不祥事の責任を問われるリスクがない。これが白羽の矢を立てられる決定的な理由となった。ジェイン氏はCEO就任前、同行を揺るがすスキャンダルの最大の‘震源地’である投資銀行部門を統括してきた経緯があり、フィッチェン氏も同行を相手取ったドイツの元メディア王キルヒ氏の裁判で偽証を行った疑惑で起訴されている。

しがらみに縛られずに改革を推進することがクライアン氏の課題となる。具体的には、シュトラテギー2020の肉付けを行うとともに、必要があれば修正を加え、財務力を強固にすることが求められる。