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2015/12/9

総合 - ドイツ経済ニュース

シーメンスがスタートアップとの連携強化へ

この記事の要約

電機大手の独シーメンスは8日、技術革新力の強化に向けた総合戦略を発表した。競合企業よりも優れた製品を投入することは事業の拡大や収益力の向上に直結する重要な要因であるためで、斬新なアイデアを持つスタートアップ企業やトップク […]

電機大手の独シーメンスは8日、技術革新力の強化に向けた総合戦略を発表した。競合企業よりも優れた製品を投入することは事業の拡大や収益力の向上に直結する重要な要因であるためで、斬新なアイデアを持つスタートアップ企業やトップクラスの大学との連携を拡充。また、デジタル化の進展に伴い芽生えてくる事業の可能性をいち早く顧客サービスへと具体化することも重要課題と位置づけている。

「シーメンシアーナー(Siemensianer)」というドイツ語がある。日本語にすれば「シーメンスの社員」とそっけないが、この語にはかつて、老後も含めて金銭的に不自由なく生活できる豊かな就労者といった特権的なニュアンスがあり、同社には優秀な人材は自然と集まってきた。

世界的な大企業であるため、現在も社員が相対的に裕福であることに変わりはなく、秀才型の人材であればそれなりの数を獲得できる。だが、画期的な製品を生み出すようなタイプの人材は大手企業に就職するよりも、自ら起業したり自由で活気のある小企業に就職する傾向が強い。彼らの手本はマイクロソフトのビル・ゲイツであり、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグなのだ。

シーメンスのジョー・ケーザー社長は先ごろスタートアップに関するミュンヘン大学の討論イベントに参加した。その際、「シーメンスで働きたい人は?」と参加者に問いかけたところ、手を挙げた人はごくわずかだったという。

シーメンスにとってはゆゆしい事態であり、今回の技術革新強化戦略にはスタートアップとの連携強化策が盛り込まれた。その柱となるのは「イノベーションAG(仮称)」という部署の設置だ。同部署は画期的な技術やアイデアを持つスタートアップに資金やアドバイスを提供し、商品化を支援する。その際、支援対象企業が大胆な取り組みを行えるようにし、創造性を削ぐような干渉は控える。

業界は違うが、独最大手銀行のドイツ銀行も今年、金融関連のITスタートアップ企業である「フィンテック」と協働するための事業拠点をベルリン、ロンドン、シリコンバレーの3カ所に開設した。フィンテックが持つ事業アイデアを年500件以上、吟味。将来性があると判断した場合は共同開発に切り替え、自社商品・サービスなどに取り込んでいく。

シーメンスはまた、スタートアップとの情報交換の場である「起業家センター」をハイテク起業が盛んなイスラエルのテルアビブに開設する。シーメンスはそうした拠点をすでにバークレー、上海、ミュンヘンで運営。年に1,000社以上のスタートアップとコンタクトを取っている。

ビッグデータ活用で新サービス

トップクラスの大学との連携ではミュンヘン工科大学(TUM)の構内に研究センターを開設する。シーメンスの研究者100人以上を配置。TUMの研究者と共同でITセキュリティや自律システム(AS)の研究に取り組む。中国にも来年、イノベーションセンターを開設し、デジタル化ソリューションの研究・開発を進める。

経営陣が最先端の技術動向を把握・評価できる体制を構築することも重要な課題と位置づけており、同社はそうした情報を取締役会に提供する助言機関「シーメンス・テクノロジー・アンド・イノベーション・カウンシル(STIC)」を設立した。メンバーにはジークフリート・ルスヴルム技術担当取締役のほか、研究開発の分野で国際的に評価の高い専門家7人が名を連ねている。

デジタル化の進展に伴う事業の可能性を探るためには、独自のプラットホーム「シナリティクス(Sinalytics)」を立ち上げた。同プラットホームではリモートメインテナンス、データ分析、サイバーセキュリティに関する新旧の技術を統合。ガスタービンや鉄道車両などの同社製品に取り付けたセンサーから得られるビッグデータを分析し、得られた有用情報をもとに新サービスを顧客企業に販売していく。「インダストリー4.0」の具体化に向けた取り組みで、すでに30万台の機械・設備からシナリティクスに情報が送信されているという。