テレコムの通信網高速化計画、欧州委が本格調査へ

欧州連合(EU)の欧州委員会は10日、ドイツテレコムが既存の銅線(固定電話回線)を更新して超高速ブロードバンドサービスを提供する計画について、EU競争法に基づく本格調査を開始したと発表した。同社は「ベクタリング」と呼ばれる技術を使って銅線の伝送容量を拡大する方針を打ち出し、独通信規制当局の承認を受けたが、ベクタリングを用いると、他社と回線共有が実質的に不可能となるため、欧州委はブロードバンド市場で公正な競争が阻害される恐れがあると判断した。同計画を承認した独当局の決定が妥当かどうか、3カ月以内に結論をまとめる。

ブロードバンド高速化の取り組みとしては、フランスなどで個々の世帯と光ファイバー網を直接結ぶFTTH(ファイバー・トゥー・ザ・ホーム)の導入が進められているが、光ファイバーを各戸に敷設するには莫大なコストと時間がかかる。このためドイツテレコムは各世帯につながる銅線を束ねる「収納ボックス」と光ファイバー網の接続を進める一方、ベクタリングによって銅線の伝送容量を2倍に拡大し、最大100Mbpsの回線速度を実現する構想をまとめ、昨年11月に独連邦ネットワーク庁(BNetzA)の承認を受けた。

だが、ベクタリング技術を用いて既存の銅線インフラを更新した場合、銅線ケーブルの一部を切り離して他社に開放することができなくなる。競争上の理由からドイツテレコムは回線網を他社と共有することが義務づけられているため、同社と競合関係にある英ボーダフォンなどが欧州委に苦情を申し立てていた。

欧州委はドイツテレコムの計画を認めた場合、同社の回線を利用している競合他社は著しく活動を制限される恐れがあると警告している。エッティンガー委員(デジタル経済・社会担当)は「回線のアップグレードと競合他社に対する質の高いアクセスの両方を実現する必要がある」と強調したうえで、ベクタリングの導入が進んだ場合、長期的にみて光ファイバー網への投資意欲が損なわれる可能性があると指摘した。

これに対し、ドイツテレコムは声明で「ベクタリング技術を導入しなければ農村部では今後もケーブル事業者による独占体制が続き、競争力のあるサービスから排除されることになる」と反論。最終的には同社の事業計画を承認したBNetzAの決定が支持されるとの見方を示した。

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