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2016/5/25

総合 - ドイツ経済ニュース

墺大統領選で緑の党候補が薄氷の勝利

この記事の要約

オーストリアで22日に行われた大統領選挙の決選投票で、緑の党のアレクサンダー・ファン・デア・ベレン候補が50.3%を獲得し、次期大統領に選出された。反移民を掲げる右派ポピュリズム政党・自由党(FPOE)のノルベルト・ホー […]

オーストリアで22日に行われた大統領選挙の決選投票で、緑の党のアレクサンダー・ファン・デア・ベレン候補が50.3%を獲得し、次期大統領に選出された。反移民を掲げる右派ポピュリズム政党・自由党(FPOE)のノルベルト・ホーファー候補も同49.7%に達しており、ファン・デア・ベレン候補の勝利は紙一重。同国やドイツなど欧州各国では昨年の難民急増を受けて排外政党が急速に支持率を伸ばしており、欧州の既存政党は今回の選挙結果にひとまず安堵感を示している。

オーストリアの大統領選挙では一次投票で過半数を制する候補者がいない場合、決選投票が行われる。4月末の一次投票では2大政党である国民党(OEVP)と社会民主党(SPOE)の候補が低得票率で惨敗。FPOEのホーファー候補が35.1%で1位となり、2位となった緑の党のファン・デア・ベレン候補(同21.3%)に大差をつけていた。

それにもかかわらず決選投票でファン・デア・ベレン候補が逆転勝利したのは、緑の党とOEVP、SPOEの支持層に加え、排外主義的な大統領の誕生に危機感を持った有権者が同候補に投票したためだ。これを反映し決選投票の投票率は72.7%となり、一次投票の68.5%から4.2ポイント上昇した。

オーストリアでは戦後、大統領はもっぱらOEVPかSPOEから選出されていた。だが、両党からなる大連立政権が昨年、難民受け入れに比較的寛容な姿勢を示したことを受けて、地方や低所得の有権者が離反。FPOEの躍進をもたらした。地方と労働者層ではホーファー候補の得票率がそれぞれ71%に達している。ファン・デア・ベレン候補は都市部の有権者の強い支持で大統領に選出された格好だ。

今回の選挙ではオーストリアの世論が移民・難民問題をめぐって2つに分裂していることが浮き彫りになった。ファン・デア・ベレン次期大統領はこれを踏まえ、ホーファー候補に投票した有権者の大半は現状への不満、怒りを選挙で表明したに過ぎず、右翼ではないと強調。大統領就任後はこうした市民の不安を取り除き国民の融和に努める考えを示した。

大連立が反移民政党躍進の一因に

欧州では移民・難民に対する市民の不安をあおるフランスの国民戦線(FN)などの政党が勢力を強めている。これまで強力な排外政党がなかったドイツでも新興政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が急成長。有権者を奪われる既存政党は危機感を募らせている。

ドイツとオーストリアで反移民政党のAfD、FPOEがそろって勢力を伸ばしている大きな一因には、両国ではともに左右の2大政党が大連立政権を運営していることがある。大連立政権では2大政党が議会で圧倒的な議席を持つことから、政府の政策は実現しやすいものの、政策に不満を持つ有権者の声を拾い上げる適切な受け皿がないという構造的な弱点ある。この弱点は大きな問題がない状況下では顕在化しない。だが、現在の難民急増のような社会を揺るがす問題が出てくると、不安や不満をあおり単純な解決策を示すポピュリズム政党が強力な吸引力を持ちやすい。

AfDの急成長に有効な手立てを打ち出せないドイツの既存政党にとってFPOEの躍進は‘明日のわが身’と映る。

中道右派の独与党、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は現政権がそうした隘路に陥っていることを認識しており、フォルカー・カウダー院内総務は先ごろ、2017年の連邦議会(下院)選挙後は中道左派の社会民主党(SPD)との連立を継続しない意向を表明した。議会で政府与党に強力な野党が対峙していれば、市民は自分の考えが議会に反映されていると感じやすくなると指摘している。SPDのトーマス・オッパーマン院内総務も同様の意見を述べており、両会派は選挙後に連立を解消する方向だ。

ただ、ドイツでは近年、大連立以外の政権が成立しにくくなっている。過半数議席を持つ安定した連立政権を樹立しようとしても、各政党の政策の違いを埋めることが極めて難しいためだ。例えば、急進左派の左翼党はCDU/CSUと自由民主党(FDP)から連立を拒否されている。中道右派のCDU/CSUとFDPに緑の党を加えた政権や、SPD、緑の党、左翼党、FDPの4党連立も現実味がほとんどない。

AfDが連邦議会に進出すると、大連立以外の安定政権の樹立は一段と難しくなる。AfDとの連立の可能性を他の政党は明確に排除しているためだ。

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