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2016/6/8

総合 - ドイツ経済ニュース

派遣社員の権利強化へ、9カ月超で同一賃金・18カ月超で正社員に

この記事の要約

ドイツ政府は1日の閣議で、被用者派遣法改正案を了承した。派遣社員の権利を強化するとともに、派遣社員の増加で雇用者に対する正社員(被用者)の立場が弱体化することを防ぐことが狙い。連邦議会(下院)の採決を経て来年1月1日付で […]

ドイツ政府は1日の閣議で、被用者派遣法改正案を了承した。派遣社員の権利を強化するとともに、派遣社員の増加で雇用者に対する正社員(被用者)の立場が弱体化することを防ぐことが狙い。連邦議会(下院)の採決を経て来年1月1日付で施行される見通しだ。

現行法では派遣社員を特定の企業1社に派遣する際、派遣期間の上限が設定されていない。このため、正社員と同様の仕事を長年行っているにもかかわらず、身分は派遣社員のままというケースが多い。政府はこれを問題視。改正法案では特定の1社への派遣期間を最大18カ月とし、これを超える場合は派遣先企業が自社の社員として採用しなければならないと明記されている。

ただ、各業界の労使は労使協定を締結して派遣期間の上限を延長することができる。また、労使協定の拘束を受けない企業は業界のそうした協定を従業員代表の事業所委員会(Betriebsrat)と合意のうえで採用できる。

改正法案には「同一労働には同一賃金」の原則も盛り込まれた。派遣期間が9カ月を超えた派遣社員に対しては派遣先で同等の仕事を行う正社員と同額の賃金が支払われなければならなくなる。ただし、そうしたルールをすでに独自導入している業界では同ルールの適用開始時期を最大「派遣16カ月目」まで延ばすことができる。

改正法案ではスト破りのために雇用者が派遣社員を投入することも禁じられている。

請負契約の濫用に歯止め

政府は今回の改正法案で、実質的に服務契約(Dienstvertrag)であるにもかかわらず、形式上は請負契約(Werkvertrag)の形を取る取引を通して派遣社員が劣悪な条件で働かされている問題にもメスを入れた。

服務契約と請負契約はともに民法典(BGB)に記された概念であり、法文には契約当事者それぞれの義務が明記されている。文面は以下の通り。

民法典(BGB)

611条1項

服務契約により、服務に同意した者は約束した服務の実行を義務づけられ、契約の相手方は約束した報酬の支払いを義務づけられる

631条1項

請負契約により、請負人は約束した仕事の完成を義務づけられ、注文人は合意した報酬の支払いを義務づけられる

法律の文面だと両者の違いが分かりにくいが、請負契約では請け負った仕事の完遂(成功)が義務づけられるのに対し、服務契約では成功に向けて努力することが義務づけられるものの、成功そのものは義務づけられない。雇用契約は弁護士との契約や治療契約とともに服務契約の典型である。

ドイツでは近年、実質的には雇用(服務)契約であるにもかかわらず、形式上は請負契約の形を取る取引が増え、大きな問題となっている。企業にはコスト削減のメリットがあるものの、そうした企業と契約する「見かけ上の自営業者」は「生殺与奪権」を事実上、契約先の企業に握られているうえ、被用者と異なり解雇保護ルールも適用されないためだ。

こうした問題を踏まえ、最高裁の連邦労働裁判所(BAG)は2013年9月の判決で、形式的には請負契約であっても実質的に雇用契約であれば、雇用契約になるとの判断を示した。

ただ、個々のケースでは両者の区別が難しいことから、与党は中道左派の社会民主党(SPD)の意向で規制強化方針を13年12月の政権協定に盛り込んだ。政府は今回の法改正で、「派遣」の場合はその旨を契約に明記することを義務づける考えだ。また、派遣先企業には請負契約で仕事を行う請負人の投入場所、仕事内容・範囲に関する情報を事業所委員会に開示すること義務化。これにより、誰が派遣社員で誰が請負人かを曖昧にすることを防ぎ、被用者である派遣社員の権利を強化する。

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