ボーナス支給額を「公正な裁量に基づいて(nach billigem Ermessen)」決定することを雇用契約で取り決めている場合、雇用主は支給を見送ることが可能なのだろうか。この問題に絡んだ係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が3日の判決(訴訟番号:10 AZR 710/14)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は外資系大手銀行のドイツ支店で2010年1月1日から12年9月末まで勤務していた部長が同行を相手取って起こしたもの。同部長には公正な裁量に基づいて毎年ボーナスを支給することが雇用契約で取り決められていた。
同部長は09年度のボーナスとして20万ユーロを受け取ったものの、10年度は9,920ユーロに減少。11年度は支給がなかった。同僚は11年度のボーナスとして前年度の半額から3分の1の額の支給を受けていたことから、原告は無支給を不当として提訴し少なくとも5万2,480万ユーロを支給するよう要求した。
原告が根拠としたのは契約当事者の一方(ここでは被告銀行)が給付額を決定する場合、その決定が他の当事者(ここでは原告部長)に対し拘束力を持つのは公正な裁量に基づいてなされた場合に限られるとした民法典(BGB)315条3項の規定だ。同項にはさらに、「この決定が公正でない場合、決定は裁判所によって行われる」と記されている。
1審は原告の主張を認め、11年度のボーナスとして7万8,720ユーロを支払うよう被告銀行に命令した。一方、2審のヘッセン州労働裁判所は、原告は裁判所がボーナス額を決定するために必要な情報を十分に提示しなかったとして1審判決を破棄。原告敗訴を言い渡した。
これを不服として原告は上告。最高裁のBAGは2審判決を破棄し裁判をヘッセン州労裁に差し戻した。判決理由でBAGの裁判官は、裁判所での給付額(ボーナス支給額)の決定は契約当事者双方が提示した情報に基づいて行われると指摘。被用者である原告が知りえないボーナス原資総額などの情報を被告銀行が提示しないことで原告が不利になることはあってはならないとの判断を示した。
そのうえでさらに、裁判所が給付額(ボーナス)を決定できないのは、決定に必要な情報がまったくないという例外的なケースに限られると指摘。今回の係争はそうしたケースに当たらないと強調した。
ヘッセン州労裁に対し、この基準に基づいてボーナス額を決定するよう命じた。