不正を行った社員に対し、即時解雇を見合わせる代わりに自主退社を迫ること、つまり労働契約を解除する契約への署名を求めることは不当な圧力の行使に当たるのだろうか。この問題をめぐる係争でラインラント・ファルツ州労働裁判所が1月に判決(訴訟番号:4 Sa 180/15)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は雇用主である介護サービス会社との労働契約を解除する契約に署名した介護職員が、同社を相手取って起こしたもの。
原告職員は訪問介護を担当していたが、勤務時間と勤務内容を偽って記録したうえ、自分の業務を配下の職業研修生2人に肩代わりさせていた。
この事実を知った上司は2014年2月7日、事業所委員会(Betriebsrat)の代表を交えて原告と話し合いを実施。労働契約の解除契約に原告が署名すれば、即時解雇と刑事告発を見合わせる考えを伝えた。原告はこれを受けて同契約に署名。労使関係は同日付で解消された。
原告はその10週間後、労働契約の解除契約に署名したのは不当な圧力を受けたためだとして、解除契約無効の確認を求める裁判を起こした。
1審のカイザースラオターン労働裁判所は原告勝訴を言い渡した。一方、2審のラインラント・ファルツ州労裁は1審判決を破棄。原告と被告が締結した解除契約は有効だとの判断を示した。判決理由で同州労裁の裁判官は、署名を求める上司の要求が不当な脅迫であったのでれば、同解除契約は無効だが、原告の場合は違法行為を行っていた疑いが濃厚なことが、被告が提出した書類と職業研修生2人の証言から明らかだと指摘。こうした状況下で雇用主が即時解雇と刑事告発を見合わせる代わりに労働契約の解除契約への署名を被用者に求めることは脅迫に当たらないとの判断を示した。
最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告は認めなかった。