工業ガス大手の独リンデ(ミュンヘン)は1日の監査役会で、米同業プラクスエアとの合併計画を承認した。被用者代表の役員は、合併が実現すると独・欧州で大規模な人員削減が行われる恐れがあるとして反対の姿勢を示していたが、経営側の役員が押し切った格好だ。両社の株主と金融・独禁当局が今後、計画を承認すると、業界最大手が誕生する。
工業ガス業界では価格競争が激しく、最大手の仏エア・リキッドは昨春、業界5位(当時)の米エアガスを買収し市場シェアを約25%に拡大。トップメーカーとしての地位を強化した。
これに危機感を持ったリンデとプラクスエアは合併交渉に乗り出したものの、9月になって一度、打ち切った。プラクスエアが新会社の統括権限を米コネチカット州ダンベリーにある自社の本社に一元化するとともに、ミュンヘンにあるリンデ本社の権限の大幅縮小やリンデの独拠点の統廃合を要求し、リンデ従業員の反発を買ったためだ。
プラクスエアがこの経緯を踏まえたうえで改めて合併を提案したことから、昨年末に交渉が再開され、両社の経営陣の間で合併合意が実現した。
だが、新会社の最高経営責任者(CEO)となるプラクスエアのスティーブ・エンジェルCEOが合併後もダンベリーから事業を統括する意向を示したことから、リンデの従業員は再び反発。新会社は米国主導で運営され、中長期的に独・欧州の拠点閉鎖や人員削減につながるとして対決姿勢を示していた。
メディア報道によると、1日の監査役会では資本側の役員6人全員が合併計画に賛成したのに対し、被用者側の役員は6人中1人が棄権したため反対が5人にとどまり、押し切られた。棄権したのはドレスデン工場の事業所委員長(従業員代表)。同工場は合併が実現しない場合、閉鎖される公算が高いため、反対に踏み切れなかった。合併後の新会社ではドイツの従業員の雇用が2021年まで保障される。
プラクスエアは今後、臨時株主総会を開いて合併への承認を取り付ける。
リンデは現在の株式を新会社の株式と交換することを株主に提案する。75%以上の株主がこれに応じれば、株主の承認を得たことになる。
合併の実現にはこのほか、独禁当局と独連邦金融監督庁(BaFin)、米証券取引委員会(SEC)の承認が必要で、両社は来年下半期の合併手続き完了を見込んでいる。
合併後の新会社は市場シェアが約40%(2016年の両社シェアの合計)に達し、仏エア・リキッド(約25%)を抜いて世界最大の工業ガスメーカーとなる見通しだ。ただ、独禁当局から承認を得るためには一部事業の放出が避けられない見通しのため、実際のシェアはこれを下回る可能性がある。